ぺろぺろ速報

主にけいおん!関連のSS・VIP・声優・アニメetc.. 個人的に好きなものまとめ。

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憂「お姉ちゃん。学校に遅刻するよ?」唯「私もう社会人なんだけど」

できた妹の憂ちゃんが好きな人は注意

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:25:08.71 ID:LqpTs3Q1P
憂「えっ?」



2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:27:48.50 ID:zo7UhiIM0
は?



文字色

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:30:09.93 ID:LqpTs3Q1P
憂「もう、変な冗談言わないでってば」

唯「……いや」

憂「はい、これワイシャツね」

唯「……あの」

憂「早く朝ご飯食べちゃってね。それから、襟足のところ寝癖ってるよ」

唯「ねぇ、憂」

憂「なぁに? お姉ちゃん」

唯「うちの職場は制服指定されてないし、出勤時間までまだ二時間もあるんだけど」

憂「……」

唯「だからもう高校生じゃ」

憂「朝シャワーしてくる!」

 バタンッ

唯「……いつまでこんなこと続けるんだろう」


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:33:45.34 ID:LqpTs3Q1P
唯「ぱくぱく。もぐもぐ」

憂「はぁー。いいお湯だったぁ」

唯「ふーん」

憂「お姉ちゃんも浴びてくれば? 体がサッパリするよ」

唯「最近、職場のクーラーが寒いんだよねぇ。今水浴びしたら風邪引いちゃうし」

憂「……」

憂「ねね。今日も部活するんだよね。思ったんだけど、紬さんにばかりお菓子持ってきてもらってるでしょ。
  だからたまにはうちからも、ね。スフレ詰めがあるから、よかった軽音部の皆さんにお裾分け」

唯「自分で食べて。ご馳走様」

憂「……そう」

唯「制、服、に、着替えてくるから」

憂「うん……」


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:37:05.11 ID:LqpTs3Q1P
唯「あっ、あれ? サイズが合わない……。また憂か」

唯「うーいー! ちょっときて、うーいーー!」


憂「はいはいはーいっ。どうしたの?」

唯「ねぇ。また私のブラ勝手に取り替えたでしょ」

憂「また?」

唯「突っ込むところが違うって。憂が私のブラをどこかに隠したんでしょ?」

憂「……だって、サイズ違いが入ってたから……」

唯「サイズ違いかどうかよく見てよ。憂が交換したやつ、がばがば状態でしょ」

憂「お、お姉ちゃんそんなに見せつけないで……」

唯「……とにかく、今すぐここに持ってきて。学校に遅刻するって急かしてるのは憂の方でしょ?」

憂「うん……。ちょっと待っててね」


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:40:28.10 ID:LqpTs3Q1P
唯(今のうちに私服と通勤鞄を詰め込んでおいて)

唯(ギターは学校に置いてきたって言えばオーケー)

唯(今日はさわちゃんから電話くるかなぁ。最近大人しいし、大丈夫だよね)

唯「……憂、遅いなぁ……」


唯「ういー! ねー。まだー?」

憂「おかしいなぁ……。確か、この辺りに入れたと思ったんだけど」

唯「ねぇ。もしかして、隠した場所忘れちゃったんじゃないの?」

憂「そ、そんなことないよ。もうすぐ見つかるから」

唯「……はぁ」

憂「もうちょっと待ってて! 確か、この箱の中か、裏辺りに」

唯「あー、もういいよ。憂のクローゼットから適当に借りていくから。それで我慢する」

憂「お姉ちゃんが私のをつけるの……?」

唯「……私だって成長したんだよ?」


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:44:03.38 ID:LqpTs3Q1P
唯「準備よし。それじゃあ行ってきまー」

憂「お姉ちゃん。ギー太忘れてるよ?」

唯「学校に置いてきた。じゃ、行ってきー」

憂「またまたぁ。いつも夜遅くまでギー太弾いてるのはお姉ちゃんでしょ」

唯「いつも……? 例えば昨日の晩、ギターの音が聞こえてたかどうか憂は覚えてる?」

憂「昨日は、ええと、どうだったっけ……」

唯「ほらやっぱり」

憂「でも! お姉ちゃんがギー太を大切にしてるのはよく知ってるよ。だから、学校に置いてけぼりなんて」

唯「ギー太じゃなくてギターだし」

憂「……」

唯「とにかく何も問題はないの。行ってきます」

憂「……行ってらっしゃい」


唯「よし。今日はセーフ!」


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:46:04.24 ID:uEwlNS1i0
おもしろい


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:48:53.63 ID:LqpTs3Q1P
とみ「あら、唯ちゃん。おはようさんね」

唯「あ、お婆ちゃん。おはようございます。いい天気ですね」

とみ「ほんと、いいお天気ねぇ」

唯「これなら、洗濯物がよく乾きそう。お布団も」

とみ「そうねぇ。ぽかぽかになるわねぇ」

とみ「それにしても、唯ちゃん。見かけはそこまで変わらないけど、中身はたあんと大人になったんでしょうねぇ」

唯「そうかな……。そうですかね?」

とみ「そうよ。唯ちゃんはもう立派な社会人よぉ」

唯「ですよねぇ……。はは」

とみ「……」

とみ「あのね、唯ちゃん。できればね、あんまり人様に口を出すものでもないと思うんだけど。
   ほら、こんなボケかけのお婆さんだからね、憂ちゃんの気持ちは私にもよぉく」

唯「あ、もうこんな時間! お婆ちゃん、行ってくるね!」

とみ「あらあら。いってらっしゃい」


とみ「……もう、学校へ行く年でもないのにねぇ」


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:55:16.70 ID:LqpTs3Q1P
唯(ううぅ。心なしか、周囲からの視線がいたく刺さるような気がする)

唯(知り合いにこんな姿見せられないよ。ましてや、同級生なんかに出くわしちゃったら……)

唯(25歳で高校の制服なんて、コスプレ以外のナニモノでもないし……)

唯(とにかく早く、公園のトイレで着替えないと!)


 ブロロロロッ

律(あれは……唯!? なんであんな格好してるんだ)






唯「ふぁー。会社に着いたー、けど早すぎて誰もいないー」

唯「朝早かったし、休憩室のソファで寝てようかなぁ」

唯「うん、そうしよう……。ぐー、ぐー」

 ―― ――

 ――


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 19:59:04.59 ID:LqpTs3Q1P
 「――それでね、偶然見ちゃったのよ」

 「――えーっ! あの人って、そういう趣味あったんですかぁ」


唯(……んぁ。よく寝た。そろそろ時間かな)


 「平沢さんって、どこか変わった子だとは思ってたけど」


唯(え、平沢って私のこと!? この声、ロッカー室の方から聞こえる……)


 「流石に人としてどうかと思いますよぉ」


唯(人としてどうかと? 一体何のことだろう……)



13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:02:35.33 ID:LqpTs3Q1P
「いい歳して制服趣味なんて、驚くよりも呆れちゃったわ」

「ですよねぇ。未練がましいってゆーか、若干変態入ってませんかぁ」

「まだね、完全にプライベートでっていうんなら、私だって理解しないこともなかったのよ?」

「けど通勤に学生服なんて、どう考えてもナシですよ。犯罪入ってますってぇ」


唯(うそ……。見られてたんだ、あの恥ずかしい姿を……)

唯(でも! これは憂を思ってのことなんだし。別に好きでやってるわけじゃ!)


 ガチャッ

唯「あっ……」


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:05:40.50 ID:LqpTs3Q1P
「ひ、平沢さん!? どうしてこんなところに……」

唯「おはようございます……。早く着きすぎたので、一眠りしようかと思って」

「おはようございまーす先輩。今起きたんですかぁ?」

唯「え……うん。扉が開く音で起きちゃいました」

「あ、そうなの。全く。遅刻は論外ですけど、早く来すぎるのも考えものですよ」

唯「はい。すいません……」

「分かったらさっさと動いて下さい。今朝の会議の資料、たんまりコピー機にかけないといけないんですからね」

「っていうか、そろそろタイムカード押さないとまずいっすよ先輩」

唯「……そうだね。そうします」


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:10:18.68 ID:LqpTs3Q1P
唯(やっと仕事終わった……。今日はやけに疲れた……)

 プルルルル

唯(電話? 誰からだろう……)


唯(さ、さわちゃん!? 早く出なきゃ!)

 ピッ

唯「はい。もしもし、平沢です」

さわ子『もしもし、平沢さん。ちょうど仕事が終わっただろうところを見計らって電話かけてみたんだけど、今平気?』

唯「はい。今さっき終わったばかりで、帰宅中です」

さわ子『そう。なら話してる時間はあるわね』

唯「ありますけど、あの、それで今日はどんな迷惑を……」

さわ子『ちょっとタンマ。あなた、ここのところますます他人行儀になってない?』

唯「はぁ……」


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:14:34.32 ID:LqpTs3Q1P
さわ子『三年間も教師と生徒やった仲なのに……。もうちょっと親しげにしてくれてもいいじゃない』

唯「はは。そんな時もありましたね」

さわ子『昔は餌を待つひな鳥みたいに、さわちゃーん、さわちゃーんって頼ってくれたのに』

唯「そうでしたっけ?」

さわ子『……こほん。それで、まぁ、平沢さんの気持ちも分からなくはないのだけど』

さわ子『けどね、この件で私に申し訳なく思うようなことは筋違いなの。それだけは頭に入れておいて欲しいわ』

唯「……はぁ」

さわ子『平沢さんだって、今さっきまで自分の仕事をこなしてきたでしょう。
    それと同じで、この件は、私にとって割り切ってしまえる仕事の一部なの』

さわ子『んまっ。でも、プライベートで唯ちゃんと話がしたいってことでもあるんだけどねっ』

唯「結局どっちなんですか?」

さわ子『どっちもよ。それでまず、あなたが知りたがってる結果から伝えるけど……』



さわ子『今日は来なかったわ』



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:17:59.70 ID:LqpTs3Q1P
さわ子『まぁここのところ、少しづつ頻度は減ってきているし、無意識に刷り込み学習されてるって部分があるのかもしれないわ』

さわ子『もしくは、記憶の一部が時折戻ってきてるとか。あの頭でもね』

唯「そうですか。良かったです」

さわ子『良かった? まぁあなた側に立ってみれば、よい傾向かもしれないけどね』

唯「……どういうことですか?」

さわ子『……』

さわ子『憂ちゃんの状況全体を見ると、酷くなる一方なんじゃない?』

唯「それはもう。少し前から家計簿がつけられなくなっちゃったんです。
  簡単な計算に時間を食うようになったり、お金が足りないって騒いだことも一回ありました」

さわ子『なるほどね。進行が続いてる証拠よ。学生ごっこは相変わらず続けてるの?』

唯「はい。ほとんど毎日のように……」

さわ子『そう。それは大変ね……』

さわ子『……ねぇ唯ちゃん。そろそろ専門医に指南を仰いだ方がいいんじゃない?』

唯「……でも。もう少し様子を見てからでも……」


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:22:48.78 ID:LqpTs3Q1P
さわ子『保護監督のあなたがそう決めてるなら、私から無理強いすることはできないけど……』

さわ子『けどね、憂ちゃんがおかしくなっていることは、既に素人目にも判別できるレベルであるのよ?』

唯「それは分かってますけど」

さわ子『んもう。口を酸っぱくして言い続けてるから、私の唇は梅干しみたいになってるのよ?』

唯「あはは。せっかくの美人顔が台無しだね」

さわ子『全くね。その笑いを、たまには憂ちゃんにも見聞かせてあげなさい。そろそろ切るわよ』

唯「スミマセン。努力してみます」

さわ子『私も頑張らないと……。テストの採点を終わらせないと、今夜は帰れないのよぉ』

唯「はは。さわちゃんがんば。おやすみなさい」

さわ子『おやすみなさい』

 ピッ

唯「……努力なんて、もうずっとしてきてるのに……」



21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:25:46.22 ID:LqpTs3Q1P
 ガチャッ

憂「おかえりなさい。お姉ちゃん」

唯「ただいまぁ。ご飯できてる? お腹減ったから、先に何か食べたい気分」

憂「うん、できてるよ。一応……」

唯「一応?」

憂「……あのね、今日はレトルトとお惣菜なの。手作りでなくてごめんね」

唯「今日は、じゃなくて今日も」

憂「……」

唯「別にそこまで気にしてないよ。手早く栄養を取れるなら文句言うつもりないし」

憂「明日は、明日は頑張って作るから!」

唯「あーうんうん、期待してるー」

憂「……」


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:28:19.99 ID:LqpTs3Q1P
唯「はむはむ。むぐむぐ」

憂「……」

唯「さっきから箸が全然進んでないみたいだけど」

憂「えっ、そんなことないよ。そんなこと……」

唯「さっきから私ばっかり食べてない? 盛り減るのが遅いし」

憂「……ちょっとお腹の調子が悪いのかも」

唯「どうせ二回目の夕食なんじゃない」

憂「!!」

唯「あっ。あーほら、言葉のあやだよ。間食とか、おやつ食べ過ぎちゃったのかなぁって」

憂「……食べてないもん」

唯「……」

唯「お腹痛いなら無理して食べなくていいよ。ラップしておいて、また明日にでも食べよう」

憂「うん。そうする」


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:31:24.80 ID:LqpTs3Q1P
唯「ごちそうさまでした」

憂「お粗末さまでした」

唯「お風呂入ってくるね。出たらすぐ寝ちゃうと思うけど」

憂「あ! ちょっと待って」

唯「ん? どうかしたの?」

憂「あ、あのね。今日、家の中を掃除してたら、お姉ちゃんのクローゼットの奥からこれが見つかって……」

憂「ギー太なんだけど! どうしてか分からないけど、凄いボロボロになっちゃってて」

唯「ギターね。しばらく放っておけば、痛むのは仕方ないことだと思うけど」

憂「仕方ない!? だってお姉ちゃん、あんなにギー太を大切にしてたのに……」

憂「勝手に手入れするのは悪いかもって思ったんだけど、でも、我慢できなくて……」

唯「……」

唯「もうギター弾かないからいいんだよ」

憂「えっ?」



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:33:05.04 ID:kpUs5pn20
なんか胸が痛くなるんだけど


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:34:09.30 ID:LqpTs3Q1P
唯「……でも、まぁ……。わぁ凄いピカピカ! 新品みたい! あ、でも弦は張り替えなかったんだ」

憂「うん。やり方が分からなくて」

唯「ふぅん。そっかー、へー」

憂「……」

唯「とりあえずお風呂入ってくる」

唯「あ、それから、もういい年同士なんだから、そろそろお互いの部屋に勝手に入るのはやめにしない?」

憂「……でも、お掃除とかお姉ちゃん一人じゃ」

唯「で、き、る、か、ら。やめにしようね?」

憂「……お姉ちゃんが、その方がいいって言うんなら……」

唯「くれぐれもよろしくね」

唯「特にギターはさ……」

憂「うん……」



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:36:36.18 ID:LqpTs3Q1P
唯「あー。さっぱりしたー」

唯「ベッドの上が一番落ち着くなー」


唯(……憂、まだお皿洗いに苦戦してるのかな)

唯(こんな生活、いつまで続ければ終わりが来るんだろう……)

唯(やっぱり病院に連れて行った方が……)

 プルルルル

唯(電話……。またさわちゃんだったらやだなぁ)


唯(あ、りっちゃんだ)

 ピッ

唯「もしもし平沢でございまーす」

律『もしもし田井中でござまあーっす』

唯「あはは。りっちゃん、久しぶりぃ。相変わらずのごよーすで」


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:38:15.19 ID:KPEFc8I1O
胃が痛くなるわ


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:40:45.35 ID:ioMlFOGH0
やめてくれ・・・ 涙が・・・



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:41:36.54 ID:LqpTs3Q1P
律『久しぶりってほど離れちゃないだろう。唯こそ、相変わらず高校生のまんまなんじゃないか』

唯「そっ、そんなことないよ! やだなぁ、りっちゃんったら……」


唯(まさか制服出勤がバレてる!?)


唯「そ、そいで、何かごよう?」

律『ご用かっつーとご用なんだな。なぁ、久方ぶりに飲み会でもやらないか?』

唯「前に会ったときも飲み会だったのに?」

律『いいじゃんよー、細かいことはさー。酒を呑むのに理由がいるかい?』

唯「オール・オア・ナッシングだね! 家じゃ一滴も飲めないから、外ならがぽがぽいけちゃうよ」

律『ハハッ。憂ちゃんは健康に厳しいんだなぁ。気つけ程度なら良薬になるってのに。
  きっと、唯がお酒飲んでる姿なんて見たくなぁい! っていう心持ちなんだろう』

唯「大体そんな感じ~」


唯(見つかったら有無を言わさず捨てられるんだけどね……)


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:45:51.47 ID:LqpTs3Q1P
律『そんで、いつやるかーっていう話なんだけど』

唯「うんうん」

律『今度の日曜日にしようと思ってるんだけど、どうだ?』

唯「今度のにちようー……って二日後じゃん! どうしてそんな急に?」

律『いやまぁ、私の肝臓が張り切りまくってて、酒はまだかー! って怒鳴り立てるもんだし』

唯「変なりゆうー」

律『後はなぁ、やっぱり、定期的にみんなの顔を見たくなるもんなんだよ。唯だって、そういう気分に襲われる時ってあるだろ?』

唯「うーん。たまにあるかな」

律『だろだろ?』

唯「でも、自制心が働いちゃう時の方が多いかな。なんていうか、その時は昔に戻れててもさ、
  後からやってくる現実に耐えられるかどうかっていうと、特に高校時代はさ……」

律『高校時代は……。その続きは?』

唯「たっ、大したことじゃないよ。楽しすぎたから余計にーってこと」

唯「ほら、私だってもう大人なんだから、難しい言葉を使うようにしてるだけー。ふんすっ!」

律『ふーん。あの唯さんも、センチメンタルになる時があるんですなー』

唯「あの唯さん、ってどういう意味なのさぁ」


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:50:32.65 ID:LqpTs3Q1P
律『んで、日曜は出れるって捉えちゃっていいのか?』

唯「うん、行きたい気分。他には誰が来れそうなの?」

律『一番に連絡したのは澪なんだけど、土日とも出ずっぱりで無理らしい。
  もう少しで実務が終わるらしいから、張り切らずにはいられないみたいだ。よく過労死しないよなー全く』

唯「だねぇ。澪ちゃん、バリバリのキャリアウーマンになっちゃったし」

律『そう言う唯だって、お洒落なオフィルビルで会社員やってるんだろ?』

唯「まぁ、一応。でも私なんかほとんど事務みたいなものだから、澪ちゃんには遠く及ばないよ」

律『ふぅん。私なんてしがない宅配業者だぜ? ま、それはひとまず置いといて』

律『唯が二番目で、次はムギに連絡取ろうと思ってるんだけど、おそらくまだ海外にいるだろうな』

唯「ムギちゃん、どんなお仕事してるんだろうね。もう三年くらい……ってことは、大学卒業してから一度も会ってないんだ」

律『だなぁ。んま、あいつのことだからちゃっかりやってるって。そんで、梓は余裕で捕まるだろうけど』

唯「まだ音楽の道続けてるんだよね。諦めてない、って言ったほうが当たってるかもしれないけど」

律『忙しくなりたくても、まだまだカレンダーには空白多しってとこだろう』

唯「この話、あずにゃんの前で言ったらきっと怒るだろうね」


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:55:13.88 ID:LqpTs3Q1P
律『あれだよなー。なんだかんだ私たち武道館目指すとか言ってたけど、意外に現実主義だったみたいだ』

唯「現実主義ねぇ。眩しいよね、現実って響き」

律『おーい唯。さっきからたまにキャラが崩れてないか? みつをを人生の師として設定したのか?』

唯「あはは。あんまり気にしないで。って、ここまで言っちゃうとかえって痛々しいかな」

律『……まぁまぁ。積もる話は日曜日ということで、どうせまた三人だろうけどな』

唯「はいはぁい。それじゃ、例の居酒屋で」

律『ん。詳しい時間が決まったらメールする。じゃーな』

唯「おやすみー」

律『のし!』

 プツッ ―― ツー ツー

唯「なんだかんだりっちゃんは、りっちゃんなりに充実した日々を送ってるんだよね」

唯「それに比べて、私は……」

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:57:35.27 ID:MwujzoA20
なぜりっちゃんは宅配業がデフォなのだ


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:55:58.90 ID:bkkjwPbM0
もうりっちゃん=宅配ってイメージ拭えねえなww


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:58:48.38 ID:LqpTs3Q1P
 チュン チュン

憂「お姉ちゃん。学校に遅刻するよ?」

唯「ふあぁ。くあぁ……」

憂「ほぉら、早く起きて。もう朝ご飯できてるから」

唯「………」

憂「お姉ちゃん、なんだか重い顔してるよ。怖い夢でも見ちゃったの?」

唯「今日、土曜日なんだけど」

憂「またまたぁ。だって今日は……うん、平日だよ!」

唯「……」

唯「憂の中では何曜日の設定になってるの?」

憂「設定って何が?」

唯「あー、もうそんなところ突っ込まなくていいから! で、今日は何曜日なのか分かって聞いてるんだけど」

憂「曜日は、確か、ええっと……」

唯「……」


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:01:25.04 ID:LqpTs3Q1P
唯「とりあえずごはんたべるし」

憂「どうぞ召し上がれ」

唯「またインスタントか……。もぐもぐ」

憂「……」

憂「あっ! お姉ちゃん、カレンダー見て!」

唯「カレンダーがどうかしたの? って、あ……」

憂「ほぉら、金曜日だよ。やっぱり私の言った通りだったでしょ。早く学校に行く支度を」

唯「あぁ……捲るの忘れてた……。今日は青い字のはずなのに……」

憂「もうっ。ズル休みしちゃ駄目だよ」

唯「在庫が切れたからって、日めくりタイプなんて使うんじゃなかった……」

憂「在庫?」

唯「いちいち聞き返さないで」

憂「とにかく早く学校に行く準備しないと。今から走れば、一時間目にならギリギリ間に合うよ。
  ほら、出席が足りないと進路にも響いてくるってよく言うでしょ? 行きたい大学にだって」

唯「んあああああああああああああもう! 大学なんてとっくに卒業してるんだよ!」


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:04:13.54 ID:LqpTs3Q1P
憂「お姉ちゃん? 何言ってるの?」

唯「……」

憂「だってお姉ちゃんはまだ高校生だよ? そんな見え透いた嘘……」

唯「嘘つきは憂の方だし」

憂「違うよ。お姉ちゃんの方だよ」

唯「……何回何回何回言っても学習しないんだから」

唯「もう曜日のことはさぁ、テレビつけて勝手に納得してくれないかな」

 ピピッ

唯「はい。左上のところに何て書いてありますか読んでみて?」

憂「土曜日って出てる……」

唯「ほぉら分かったでしょ。皿洗いは私がやるから、憂はその辺でごろごろしてればいい」

憂「……嫌だよ。私の仕事取らないでよ」

唯「間違ってる憂にお世話されたくないから」

憂「……くすん」



47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:05:59.45 ID:LqpTs3Q1P
 ジャー ―― キュッ

唯「ちょっと出かけてくるね」

憂「どこに行くの?」

唯「お昼は外で食べてくるね」

憂「ねぇ、どこに行くの?」

唯「……パチンコとか。競馬とか」

憂「おおおおおおおおおおおおおお姉ちゃんが不良に!?」

唯「やだなぁ嘘だから。あずにゃんちだよ」

憂「もう、脅かさないでよ。……ねね、私も一緒に行っていいかな?」

唯「それは無理かも。二人きりで遊ぶ約束だから」

憂「そうなんだ……。あっそうだ、さっきスフレ詰めを見つけてね、よかったら持って」

唯「かさばるからパス。ていうか、いい加減自分で開けて食べなって」

憂「ううん。もし家で開けるなら、お姉ちゃんと一緒に食べたいから」

唯「……その日がくるのならね」


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:08:50.04 ID:LqpTs3Q1P
 チュピーン!

 ジャラジャラジャラ

唯「おー。今日はポケットがよく開くー」



 パンパカパーン

唯「いけー! いてかましたれー、かばちたれー!」

唯「……やったー!」



 ―― ――

 ――


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:10:38.22 ID:LqpTs3Q1P
唯「今日はたんまり稼げたな~」

唯「ういー、ただいまー」

 シーン

唯「うーいー、いないのー? いないならいないって返事してー!」

 シーン

唯「……出かけてるのかな。でも、もう日は落ちきってるのに」

唯「携帯に連絡は……。って、電源切ってたんだった」


 ピポパ トゥルルル ―― ガチャ

唯「もしもし、憂。今どこにいるの?」

憂『もしもし、お姉ちゃん。あのね、今買い出しに向かってるんだけど』

唯「こんな時間に買い物? もう暗いから、諦めて戻ってきなって」


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:14:25.63 ID:LqpTs3Q1P
憂『でも、お夕飯のおかずがないし。お惣菜だけ買ったらすぐに帰るから』

唯「……ねぇ、憂」

憂『なぁに?』

唯「昨日の夜に残したお惣菜が、手付かずで冷蔵庫に残ってるはずなんだけど」

憂『お姉ちゃん、記憶がごっちゃになってない?』

唯「それ私が言いたい台詞」

憂『……またまたぁ』

唯「それで話変えるけど、憂は今道に迷ってるんでしょ?」

憂『そんなことないよ。お姉ちゃんじゃあるまいし』

唯「なにその言い方」




53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:17:33.09 ID:LqpTs3Q1P
唯「いいから、近くにある建物とか看板とか、何でも目に付くもの言って。
  すぐに迎えに行くから。お姉ちゃんが着くまで、絶対にそこを動いたら駄目だよ」

憂『そんな言い方、子供じゃないんだから……』

唯「体は子供で頭脳が大人の方がまだ助かるんだけどね」

憂『……』

唯「言い訳は後で聞くから、今は」

 ブヅッ ―― ツーツー 

唯「この馬鹿妹」

唯「はぁ。もういっそ放置して、お巡りさんにでも連れてきてもらえば……」


唯「って、GPS使えばいいんだった」



56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:22:20.26 ID:LqpTs3Q1P
唯「はぁ。はぁ。やっと着いた……」

憂「お姉ちゃん……」

唯「全く。どうやったら隣町まで来れちゃうの……」

憂「夜風が気持ちいいから、ちょっと遠回りに散歩でもしようかなって思って」

唯「ふぅん。わざわざスーパーからまっすぐ離れるように遠回りねぇ」

憂「……」

唯「おうちに帰ろう。おかずはあるものを食べればいいから」

憂「……でも」

唯「ほら、帰るよ。道端が好きなら、道路ん家の子にしちゃうからね」

憂「ま、待ってってばぁ!」



58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:26:11.52 ID:LqpTs3Q1P
唯「ただいま。そしておかえり」

憂「ただいまー」

憂「ねえねえ、お姉ちゃん」

唯「うん?」

憂「なんだか懐かしかったね。二人だけで、夜更けにずーっと住宅街を歩いて帰ってきたの」

唯「憂……何か思い出したの!?」

憂「あの時は、私もお姉ちゃんも、右と左が分からないくらいに酔っ払っちゃって。
  確かあれはお姉ちゃんの就職祝い……。あ、あれ? お姉ちゃんが就職って、どうして!?」

唯「そうだよ、憂。お姉ちゃんは大人になったんだよ。だから憂も大人なんだよ」

憂「私が大人? でも、お姉ちゃんは高校生……。えっ、あれっ」

唯「それは、何ていうか時間の流れは一定だから、ええと、上手い言い回しが……」

唯「――ッ!?」

唯(何!? なんか二階から臭う!! クサイ!!)


憂「お姉ちゃん?」



61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:29:29.72 ID:LqpTs3Q1P
唯「ガスだ!」

憂「ガス!?」

唯「息を止めて!」

憂「えっ? えっ?」

唯「お姉ちゃんが何とかするから、外に出てて。いいね」

憂「で、でも」

唯「いいから!!」

唯(栓を締めて! 窓を開けて! それから――)

 ―― ――

 ――


63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:31:39.87 ID:OftqjvK4O
唯が自分でお姉ちゃんって言ってる
ことになんだかきゅんとくる


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:32:16.66 ID:LqpTs3Q1P
唯「……」

憂「あの、お姉ちゃん……」

唯「……」

憂「返事しようよ。もう大丈夫なんだし。一緒にご飯の支度しよう?」

唯「……」

憂「黙ってたら、思ってること何も伝わらないよ。ね、お願いだから何か喋って」

唯「……」

唯「思ってること、本当に言っちゃっていいの?」

憂「そ、それは程度の差こそあれだと思うけど……」

唯「どうして謝ろうとしないの?」

憂「……」

唯「ねぇ、どうして謝らないの? 悪いことをしたらゴメンナサイしましょう。憂が馬鹿みたいに私に言ってきたこと」

唯「自分から実践しようって気は起こらないの? ねぇどうなのさ」

憂「だって……。私のせいじゃないかもしれないし」

唯「ハァ?」



66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:34:24.09 ID:LqpTs3Q1P
唯「だったら誰がやったっていうの?」

憂「それは……。例えば、泥棒さんの類とか」

唯「うちに入った泥棒が金品を盗まずにお味噌汁だけ作りかけて逃げた。どんな冗談? 笑えないって」

憂「……」

憂「だったら、単なる嫌がらせとか」

唯「誰にそんな恨みを持たれてるの?」

唯「仮に、これが私怨だったとしても度が過ぎてる。殺人未遂の域だよ」

憂「そんな言い方って……」

唯「どこが間違ってるの? あれ以上ガスが充満してたら、気づくより先に倒れてたかもしれないんだよ?」

唯「憂はお姉ちゃんを殺したいの?」

憂「……やめて」

唯「どうして私まで巻き添え食らわないといけないの?」

憂「やめて、お願いやめて……」


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:36:53.97 ID:LqpTs3Q1P
唯「泣いたら許されるとでも思ってるの」

憂「やめ……嫌……」

唯「憂はいつから頭が悪い子になっちゃったの」

憂「や、やぁ……」

憂「うぅ。ぐずっ……」

唯「……」

唯「お姉ちゃんもう寝る。ご飯はいらない。お風呂もいらない。もうさっぱり寝て夢の中でふわふわしてたい」

憂「ま、待って……。ねぇ待って」

唯「……」

憂「側にいて。お願いだから、側にいて」

唯「離してくれない?」

憂「やだもん」




69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:38:45.52 ID:LqpTs3Q1P
唯「離せって言ってるんだけど」

憂「やだ」

唯「離して」

憂「やだ」

唯「離せ」

憂「……」

唯「離せって言ってるでしょ!! この痴呆者!!」

憂「ひっ」

唯「大体なんで私が憂の面倒見なくちゃいけないの? もう成人でしょ? 馬ッ鹿じゃないの!?」

唯「今まで散々お世話されてきたから、その恩返しをしなさい? ふざけないでよ! 誰がそんなこと決めたっていうの?」

唯「いざ私が社会に歩こうとしたら、後ろからしがみついてきて、足引っ張って、枷になって……」

唯「もう限界! 死ぬなら一人で死んで! 私まで道連れにするなんて、ふざけるのも大概にして!!」

 バタンッ!


71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:39:58.64 ID:LqpTs3Q1P
唯「……私は悪くない。私は間違ってない。そう、きっとそう」

唯「どうせ憂の涙なんて、記憶と一緒に蒸発して消えるんだ。忘れるんだ。忘れる。全部忘れる」

唯「私はもう社会人として一人前なんだから。高校生も憂も卒業してるんだから」

唯「……いっそお見合いでもしちゃおうかな」



唯「……ぐー。すー」

 ―― ――

 ――


85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:10:39.80 ID:LqpTs3Q1P
梓『えっ、今からですか?』

唯「うん、飲み会まで暇でさ。もし時間空いてるなら、二人で何かして、それから一緒にって思ったんだけど」

梓『それだと、律先輩に悪い気が……』

唯「いいのいいの。どうせりっちゃんは朝から動けないタイプなんだから。昨夜はお楽しみでしたねーって意味で」

梓『はぁ。そうなんですか』

唯「で、オーケー? それとも都合悪い?」

梓『まぁ、一応用事は入ってるのですけど。でも来てもらっても平気だとは思いますけど……』

唯「用事ってどんな?」

梓『レコーディングです。父が贔屓にしているスタジオが空いてるようなので、特別に使わせてもらえることになったんです』

梓『それでバンドメンバーが集まるのですが……まぁ、そういうことなんですけど』

唯「私が入っていっちゃ駄目じゃん」

梓『あぁ。普通はそう考えますよね……』

唯「うん? 何かが普通じゃないってこと?」

梓『いえ、別に大したことでもないのですが……』


86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:13:04.98 ID:LqpTs3Q1P
梓『簡潔に言いますと、メンバーの三人が唯先輩に一度会ってみたいと前々から言っていまして』

唯「どうして私に?」

梓『それは……。あのですね、その……』

唯「んん?」

梓『唯先輩のことがよく話題に出たりしまして、いつか現物を目に収めておきたいという方向性になっていまして』

唯「誰が話題に出すの?」

梓『誰って……私以外に誰がいるんですか』

唯「あっ。ふーん、なるほどそういうことねぇ」

梓『なっ何ですかその含みのありそうな言い方は! ともにかく、来てもらっても構いませんよということです』

唯「そっかぁ。うーん。どうしようかなぁ」

唯「……やめとこうかな」

梓『そうですか……』

唯「せっかく誘ってもらったのにごめんね」

梓『いえいえ。まぁちょっと急でしたし、レコスタでご対面ってのも無理がありましたかね』


88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:15:45.51 ID:LqpTs3Q1P
梓『あっ、でもレコーディングが終わって、飲み会までだったら少しは時間ありますよ』

唯「後からメンバー集まって反省会とか、そういうのはやらないの?」

梓『今日はナシになってます。すぐに二人抜けないといけないみたいなので。唯先輩を選びます』

唯「嬉しいこと言ってくれるねぇ」

梓『だっ、だってバンドはチームワークが大切じゃないですか。皆均等に付き合っていかないと、どこかで綻びが出るというものです』

唯「なんだか経験談っぽいね」

梓『……まぁ、そのことも含めてお話ししましょう。唯先輩』

唯「うん、分かった」

梓『そろそろ切りますね、唯先輩。機材の準備があるので』

唯「はあい。じゃ、終わったら電話ちょうだい」

梓『はい。ではまた』

唯「……」

梓『……』

唯「どっちから切る?」

梓『私から切りますっ!』

91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:19:30.66 ID:LqpTs3Q1P
 ――

 ―― ――

梓「せんぱーい! ここですよー!」

唯「お、めっけためっけた」


唯「久しぶりだねー。よっこらしょういちっと」

梓「唯先輩……しばらく会わないうちに台詞がおばさん臭くなりましたね……」

唯「なにをー、一つしか違わない癖に。私がおばさんなら、そっちもおばさんでしょ」

梓「あはは。昔の歌にそういうのありましたね」

梓「それで、どれくらいぶりでしたっけ? こうして顔を合わせるの。一年くらいでしょうか?」

唯「うん。だいたいそれくらいだと思けど……。じいいぃぃ」

梓「なっ、なんですかその思慮深い目付き……」

唯「あんまり変わってないね!」

梓「んもう! 背と胸だけを見て判断しないで下さい!」



93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:24:02.16 ID:LqpTs3Q1P
唯「それギターだよね」

梓「あ、はい。スタジオに置いてくるわけにはいないので持ってきました。直行でしたし」

梓「フェンダー・ムスタング。何だかんだ、ずっと使い続けてるんです」

唯「むったん、だっけ?」

梓「ちゃんと覚えててくれたんですね。ムスタングのむったん、私の相棒です。きりり」

唯「ほおぉ。ライブパスも隙間ないくらい張ってあるし、なんだか手の届かない人になっちゃったみたい」

梓「またまた大袈裟ですって。ライブに出るだけなら、ある程度の実力とコネさえ満たしていればいいんですから」

梓「そういう意味では、唯先輩だって同じ道を行く選択肢はあったかと思いますけど」

唯「……同じ道、ねぇ……」

梓「……」

梓「でもでも! ミュージシャンなんておよそ現実的ではありませんし、堅実に生きる方が賢いということですよ」

唯「ふぅん。目指してる人でもそういうこと考えちゃうんだ」

梓「メンバーに聞かれたらおかんむりにされそうですけど、どの金の卵だって同じことを考えてるはずですよ」

唯「でも止まれない、止まらない」

梓「そういうことですね」


94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:27:07.42 ID:LqpTs3Q1P
梓「唯先輩はたまにギー太触ったりしてるんですか?」

唯「ギー太ねぇ。あんまり、っていうかほとんど放置しちゃってるのが現状かな」

梓「そうなんですか……」

唯「でも私って天才肌だし、練習したら一ヶ月くらいで元に戻れるかもっ?」

梓「なら試しにむったん使って弾いてみますか?」

唯「え、遠慮しとく……。ギー太以外だと使いこなせる気がしないっていうか……」

梓「でしたね。そう言い返されるだろうと思いました」

唯「あー、うーん。でもやっぱり、もうギターに触れる機会はないと思うな」

唯「一番に余裕がないし。仕事のことが頭にあると、身にも入らないだろうし」

梓「……うちのメンバー、二人は社会人ですよ?」

唯「え、本当に?」

梓「ええ。ドラムとベースがそうです。ですから揃っての練習は平日の深夜や、土日の空いてる時間になることがほとんどですね」

唯「あっ、じゃあ今日レコーディングが終わって先に抜けた二人って」

梓「その通り、社会人の二人です。大事な用事って言ってましたけど、おそらく仕事関係のことかと」

梓「彼女たちの不等号はあちらに向いてるんです。それを強制することなんてできませんから」


97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:31:52.52 ID:LqpTs3Q1P
唯「ふぅん、そうなんだ。ちなみに、残りの一人はどんな子なの?」

梓「ギターの子なんですけど、大学の軽音サークルからの付き合いなんです。今は私と同じくフリーターなんですけど」

梓「電話で言ったチームワークが大切っていうのが、この子に絡んでくるんですけど。……聞きたいですか?」

唯「うん。良かったら聞かせて欲しいな」

梓「はい。大筋から言いますと、私とその子が仲良くなりすぎて、ベースとドラムが他所に行っちゃったんです」

唯「その出て行ったベースとドラムっていうのが、今いる社会人二人の前釜なんだ?」

梓「そうです。大学の軽音サークルからの付き合いでした。学生の時は、なんだかんだ同じキャンバスにいたのでよく集まってたんですけど、
  皆卒業すると、自然と寄り合う機会が減ってしまいました。そこで関係が両極されてしまったんです。
  周囲から目を瞑り、一人にしか焦点を当てなかった。彼女たちが離れていくのは、少し考えれば分かることでした」

唯「……そうなんだ。何年も一緒に活動していたのに、そんな別れ方もあるんだ……」

梓「ええ。でもまぁ、学生時代でだってツーマンバンドって陰口叩かれてたくらいですから、時間の問題だったんですよ」

唯「そっか……。だからチームワークは大切なんだね」

梓「はい。ですから、先輩と先輩たちにその気があるなら、今からでもやり直せると思うんです」

唯「ちょ、ちょっと待って。いきなり話が飛んだよ!?」


99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:37:43.53 ID:LqpTs3Q1P
梓「唯先輩はさっき、ギターに触らないのは一番に余裕がないからだと言いましたよね」

唯「うん……」

梓「これは私の善がりな想像なのですけど、もしかして二番目があるんじゃないでしょうか」

梓「例えば、一緒に演奏する人がいないとか……」

唯「……はは」

梓「私、思うんです。私が大学サークルから続けたバンドは、もう壊れてしました。
  しかし、先輩方のバンドは自然消滅しただけです。だから、今からでも再生は可能なはずです。
  他の皆さんにその気が無ければそれまでですが、少しでも前向きなら……それは凄く勿体無いことだと思うんです」

唯「勿体無い、かぁ」

唯「でも、放課後ティータイムは五人あってこそだよ」

梓「それは嬉しいですけど……。言ってしまいますと、私が観察する放課後ティータイムは、四人のまま変わってないんです」

唯「……どういうこと?」

梓「主観と客観は違います。下される評価は、常に客観に頼ったものになっちゃいます。
  売れないバンド故の苦悩ですよ。自分たちは最高の音楽だと思ってるのに、レコード会社からすればへのへのもへじ以下です。
  ですから放課後ティータイムに関して、私が意見力を持つ発言は、四人の状態であるべきなんじゃないかって思えてしまって」

唯「……まぁ、少なからず今のバンドを放り出すわけにはいかないもんね」

梓「そうですね。偉そうに言ってますけど、今のバンドが一番大切なのは当たり前ですから」



101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:42:51.44 ID:LqpTs3Q1P
梓「ただ、私が入部を決めた新入生歓迎ライブ、あれが最も鮮明に焼き付いていることは確かです。
  私が見る放課後ティータイムは、あの地点からずっと途切れたままになってるんです」

唯「なるほどねぇ。社会の厳しさを知って、色々と大人に考えるようになったってことかぁ」

梓「ですよ。だから背と胸だけで判別して欲しくないと言ったんです」

梓「それで、どうですか? 今話したことを鑑みるに、唯先輩は」

唯「うーん……。またみんなで軽音をやれるなら、凄く楽しいだろうし嬉しいことなんだろうけど」

唯「でも、やっぱり余裕がないよ。手が回らないと思う。そういう事情もあるし……」

梓「事情……? あぁ、そうでしたね」

唯「えっ? その言い方、何か知って」

梓「あっ、いえいえ! 唯先輩が急に暗くなったので、突っ込まないで同意する方がよいかと思いまして。はは」

唯「なぁんだ。もー、気使いさんだなぁ」

唯「……さてと、もうすぐ待ち合わせの時間だね。そろそろ行こっか」

梓「あ、はい……」

唯「りっちゃんはまぁだカチューシャを」

梓「あっ、あの! 唯先輩!」



104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:46:20.10 ID:LqpTs3Q1P
唯「んっ、どうかしたの?」

梓「あの……私には言ってくれないのでしょうか」

唯「言うって、何を?」

梓「……その、名前を。今日まだ一度も呼んでくれてません。私からばかり、唯先輩唯先輩ってさっきから……」

唯「あー。そういえばそうだったかも……」

梓「別に会話は成立しますけど、心持ち的にはちょっと不快です……」

唯「……ごめんね。なんていうか、あずにゃんは呼び慣れてたけど、この年で言うのは流石に抵抗があるっていうか」

唯「でも梓ちゃんだと今更感っていうか違和感あるし。結局、決められないままに……」

梓「もう、いいですよ! 分かりましたから。好きな指示語でも使って呼べばいいんじゃないですか」

唯「お、怒らないでよぉ」

梓「別に怒ってなんかないですもん」

唯「むううぅぅっ!」

唯「機嫌直してってば、あずにゃーんっ!!」

梓「わっ! ちょっ! ハグは勘定にないです! 恥ずかしいですってば、離して下さいぃ!」

唯「嘘つけー! 本当は嬉しがって抱かれてた癖に! このこのっ、七年分溜めた愛情を味わうがいい!」



107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:49:39.26 ID:LqpTs3Q1P
 ――

 ―― ――

律「で、何でお前らそんなに服装が乱れてるわけ?」

梓「ちょっとした感情のもつれがありまして……」

唯「珍獣ハンターごっこが止まらなくなりまして……」

律「なんのこっちゃ分からんが、ともかく行くぞ。暴露話は酒が入ってからな」

梓「了解しました」

唯「んー、ふふふ」

律「唯? なんか落ち着きがないな。特に口角辺りが」

唯「ちょっとねー。ふふ」

梓「……」

唯「ねっ。あーずにゃん」

梓「まぁ、いいんじゃないですか。それで」


律「……なんとなく感じ取ってしまったんだが、あえて聞かないでおこうか」


110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:53:45.17 ID:LqpTs3Q1P
律「っつーことで、乾杯! ぐびぐびっ! ぷはぁっ!」

梓「は、早い。なんという飲みっぷり……」

律「接待で鍛えられてるからな。ピッチャーの一つや二つは軽いもんだぜ」

唯「やるねぇりっちゃん。私だって負けないよ。ぐびぐびぃ!」

律「ほおぉ。唯もなかなかやるな。しかしこの場は譲らんよ、ぐびぐびっ!」

梓「ちょ、ちょっとペース速すぎですって。話の前に潰れたら元も子もないじゃないですか」

唯「それならそれでいいじゃん。何か大事な発表でも控えてるの?」

梓「それは、えっと、近況報告とか色々あるじゃないですか」

律「カシスオレンジなお子様舌の梓さんに仕切られてもなぁ~」

梓「ビールは苦手なんです……。残念ながら」

律「あのなぁ。ビールの味にくらい慣れとかないと、社会に出てから人付き合いに支障が出るんだぞ?
  よぉしここはだな、バリバリ社会人であるこの私がピヨっこな梓の為に、近況を交えながら色々と説き聞かせてやろうではないか」

梓「愚痴だらけになりそうな予感……」

律「うるへぇ! その分お前の話だって聞くんだからな。まずはだな、あれは、確か凍てつくような冬の日だった――」

112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:57:19.77 ID:LqpTs3Q1P
律「――と、いうわけなのよ。いやぁ、ぶっちゃけ舐めてたね。今も辛酸を嘗めるような毎日だけどさぁ」

梓「うわぁ、予想通りブラック……」

唯「苦労してきたんだね……」

律「おいおい、別にお前らを悲観させるために打ち明けたんじゃないぞ。
  ぶっちゃけて、スッキリして、また明日頑張るための活力にする。それが正しい酒と友ってもんだ」

唯「りっちゃん格好いい! 惚れる!」

律「だろう? そのハートに不在通知が届いてたら、いつでも配達に伺うぜ?」

梓「キザ臭っ。おまけに酒臭っ……」

梓「でもまぁ、それだけの毎日でも頑張れるというのは、やっぱり恋が原動力になっているんですかね。
  私の前にも、そろそろいい人が現れてもいいと思うんですけど」

律「あ゛? 梓、何言ってるんだ。私の恋はキス放置だぞ。それ以上の関係になったこともなけりゃ、結ばれたことすらねーよ」

梓「え!? でも、確か唯先輩と電話で話した時、律先輩は昨夜お楽しみだったって聞かされたような」

唯「……てへっ」

梓「ちょっ、嘘だったんですか?」

律「まぁまぁ、唯さんには後できつーく言っておくとしてだ。とりあえず次に梓の近況を聞かせてもらおうではないか。
  どれだけ恋気がないかを暴露して、私を安心させるがいい。フハハハハ」

梓「どうしてそういう流れに……。まぁ話しますけど。あれは、確か木枯らしの吹く秋でした――」


114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:58:38.61 ID:LqpTs3Q1P
梓「――というわけで、もうしばらく音楽の道に挑戦してみようということになったんです」

律「ツマンネ」

梓「ガーン!」

梓「恋気のない話が必要だって言ったのは律先輩の方じゃないですか」

律「いやそれはさぁ、例えば片想いを手痛く叱咤されて傷心した思い出とか、そういう他人の不幸から蜜を絞れるような何かがさ」

梓「なんですかそれ。真剣に聞いてくれるかと思って話したのに……損しました、全く」

律「まぁまぁ、あんまり目くじら立てんなって。御意見述べたいことろは、ちゃーんと見つけたからさ」

梓「……例えば、どんなところですか?」

律「そうだなぁ。まず梓だってよく分かってると思うけど、いざ売り出されるようになった時、その社会人二人組は一体どうするんだ。
  売れる内に売らないと、次がいつあるかの分からん業界だろ。そんな時、仕事を優先するなんて言われたらどうするつもりだったんだ?」

梓「……それは、確かに前々からの課題点でした」

律「いざ時が来てからじゃあ遅ぇ。本気で目指してるならその二人を抜くか、その分お前が三倍動くかしかない。
  後、細かく突っ込みたい部分はいくつかあるが……そうだな、私が見たお前の未来予想図でも話してやろうか」

梓「私の未来……? 話してみて下さい」

律「ほぉう。食いつくねぇ」




117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:01:50.68 ID:LqpTs3Q1P
律「中野梓は自らの力によるデビューを諦め、ちょっと名の通ったグループたちのバックバンドに参加するようになる。
  結婚相手は音楽業界の誰か。これは両親がくっ付けようとする。ツテとコネを活かしてギターをかき鳴らす日々。
  年を食い、そのうち旦那と共に個人の音楽教室なんか開いたりする。音楽にまみれた人生は慎ましくも後すぼみに沈んでいく……。
  ちゃんちゃん!」

梓「……コメントしづらいです」

律「なぁ梓。お前の両親ってものすげー過保護じゃないか? 娘のために人様のスタジオをタダで貸させるなんて有り得ねーよ。
  今まで、親経由で知り合いの業界人と会ったり話したりする機会なんか多かったんじゃないのか?」

梓「それは……たまに。ツテやコネを貰えるなら貰っておきたいですもん」

律「そいつはプロデビューへの手助けと共に、そうでない未来への保険でもあるというわけだ。どうだこの名推理!」

梓「はぁ……。でも律先輩はうちのバンドの演奏とか、他にも色々と知らないところがあるじゃないですか。
  それに業界のことなら私の方がよく知ってますし。決めつけられたくありません」

律「無知であるほどあれこれと空想できるもんだろ。酔っ払いの思考回路舐めんな、はっはっはー!」

律「んま、もう少し危機感を持った方がいいんじゃねーの」

梓「……頭の隅くらいには入れといてあげます」

律「そいつは有り難いこって」

律「……で、唯? どうした、さっきから黙りこくっちまって」

梓「そうですよ。おかしな推理屋は置いといて、唯先輩からも何か話して下さい」

唯「えっ、あぁ、じゃあ話すよ。あんまり面白いものでもないけど。あれは多分、茹だるような夏の日だと思ったけど――」


118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:03:16.69 ID:LqpTs3Q1P
唯「――そんな感じで、勤め先の人たちとはあんまりうまくいってないんだ」

律「ふぅん。でもそんなの、馴染みの店に連れ込んで飲ませて吐かせれば仲良くなれるもんだろう?」

梓「律先輩の感覚でモノを言わないで下さい。別の世界なんですよ」

律「あぁん? そんなに吐くまで飲みたいってか?」

梓「い、いえ。滅相もない」

律「ったく。んで、他には?」

唯「他? って言われても、特に話すようなことはないよ」

律「そうか? 打ち明けてすっきりさっぱりーって顔になってないから、まだ何かあるように思えたんだけど……」

唯「ないない。ほら、私昔から嘘とかつけない性格だし」

律「だよな。私が制服出勤を目撃したのも、何かの見間違えだったんだよな」

唯「えっ!?」

梓「ちょっ律先輩、そんな言い方……」

律「いいだろ梓。このまま地味に語って解散なんて筋書きは用意してないんだから」

唯「え……。二人共、知ってたの?」

律「つい最近な。朝っぱらから箱を動かさなきゃならん時に、偶然通りかかったんだ」


122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:05:21.36 ID:LqpTs3Q1P
律「まさか本当に学校に行くのかと思って、気になってさわちゃんに電話をかけてみたんだ。
  そしたらある程度の事情は教えてくれたよ。いい加減、他の誰かからガツンと言って欲しかったらしい。
  んで、その日の夜に飲み会の連絡をまわした。参加できる梓には、唯と憂ちゃんの状況、それから余計な入れ知恵をしてやった」

梓「黙っててすいませんでした。この場まで持ち込まないと、誤魔化されそうだったもので……」

律「うん。そういうことだ」

唯「そっか。さわちゃんが……」

律「なぁ唯。辛いとは思うけど、憂ちゃんの様子を話してみてくれないか? もし私たちで力になれるなら、なってやりたい」

梓「そうです。話すだけでも、一人で抱え込むよりずっと楽になれるはずです」

唯「りっちゃん……。あずにゃん……」

唯「うん。ごめん。ありがとう。……何から話せばいいのかな」

梓「憂が変わっちゃった経緯、とか」

唯「そうだね。あれは確か、桜が舞う季節のことだった――」



125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:08:01.19 ID:LqpTs3Q1P
唯「私はまだ就職したてで、憂は大学四年生になってた。その日珍しく、憂が弱音を吐いたんだ。
  卒業論文の作成がどうしても捗らないって。でも憂は私より全然頭がいいし、すぐに乗り越えるものだと思ってた。
  何より私は仕事のことで頭がいっぱいだったから、構ってる余裕なんて少しも無かったんだ」

梓「そうしてる間に病状が進行していったんですか?」

唯「うん。でも、まだ緩やかな方だったよ。やっとおかしいと気づいたのは、その年の暮れ頃かな。
  憂が私に言ったんだ、留年するかもしれないって。始めは冗談かと思ったけど、そんなことなかった。
  その時に始めて知ったんだけど、卒業論文は半分も進んでなくて、残りの十単位まで零しそうだって」

律「憂ちゃんは出来る子だったからな。凄いショックだったんだろう……」

唯「そうだね。でも涙を見せたのはその時だけだったし、結果として憂は五年目に入って、再スタートを切ったから。
  やっと余裕ができた私は、なんとか憂をフォローしようとしたんだけど、余計なお世話はいらないって撥ねつけられちゃって……」

梓「憂は、唯先輩のお世話をするのが大好きだったから。される側は……」

唯「取り付く島もなかったかな。そのうち私は、憂を信用してあげることが姉としての在り方だーって思うようになっちゃって。
  それで、その年の冬に入った頃、大学を中退しちゃった。唐突に辞めたって聞かされて、それからはずっと家に。
  病状が酷くなって、制服の話を持ち出してきたのは今年度に入った辺りかな」

律「そして今日に至るまで、ずっと憂ちゃんを繕って生活してきたのか」

唯「そういうことになるね」

梓「他の具体的な症状はどんな感じなんですか?」

唯「物覚えの悪さから始まって、家事が疎かになったり、何を思ってるのかぼんやり佇むことがあったりして」

梓「それって、やっぱり……」



127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:11:32.69 ID:LqpTs3Q1P
律「アルツハイマーだな。若年性の」

唯「うん。何冊か本を買って見てみたけど、それで合ってると思う」

律「思う? 医者に連れて行ったことはないのか?」

唯「……うん」

律「それはマズイだろ……」

梓「まぁ、今は過ぎたことを悔やんでも仕方ありませんよ。唯先輩、原因は何だったんですか。対策はあるんでしょうか」

唯「脳の萎縮なんかが引き起こすらしいけど、未だはっきりとは定義されてないみたい。対策は……基本的には投薬治療で抑制することができるって」

律「……なぁ唯。どうして憂ちゃんを専門医に診せようとしなかったんだ?」

唯「それは、だって、たまに良くなる時もあったし、いつか元に戻るかもしれないって。
  憂が社会から障害者だって認められること自体も悔しかったし……」

律「……そうか。その気持ちは、他の誰かじゃ理解しずらいかもしれないな。
  けど、放っておいても治る見込みがないことは、誰よりも唯自身が知っていたことなんじゃないか」

唯「……そうだよね。うん、私が悪いんだよ。私が憂を道連れ穴に落としたようなものだから……」

梓「……む、むううぅっ!」

梓「唯先輩が悲観していたら、憂だって辛い気持ちになるはずですっ!!」

唯「あずにゃん……」


128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:14:37.09 ID:LqpTs3Q1P
律「まぁ、病は気からってのは、どんな大病にだって当てはまるものだよな」

唯「りっちゃん……」

律「でも無理は禁物だぞ。支えが必要な時は遠慮なく使うんだ。その為に私たちがいると思ってもいい」

梓「はい。その通りです。私なんて暇な時間ばかりですから、ばりばり労使しちゃって下さい」

律「おい梓。お前は自分のことを見つめ直すべきだと有り難く説き聞かせてやったばかりだと思うんだが」

梓「丸ごと誰かの言いなりになるほどお馬鹿じゃありませんよ。御忠告は、後からよーく吟味して選別させてもらいます」

律「てめーコノヤロー! 先輩の忠告も聞けないってのかー、いあっはー!」

梓「ちょ、ちょおっ。いきなり絡まないで下さい!」

律「ホレホレェ頭皮が急上昇したデコ具合を堪能するがいい!」

梓「やめて下さいってば! 熱いです、摩擦は熱いですううぅ」

律「伝染しても責任はとらねえぜええぇえぇ」

唯「……ぽかーん」

唯「ふふ、はは。あはははははははっ。はぁーっ」

律「どーした。ゆーい」

唯「なんか、昔のことと今のことがあまりにも違い過ぎて、ギャップっていうか。なんだろう。私にもよく分かんないや」


129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:16:19.89 ID:LqpTs3Q1P
律「少しは肩の力抜けたか?」

唯「うん。少しは、何かが抜けたような気がする」

梓「その意気ですよ。先輩」

唯「ありがとう。昔みたいな前向きさを思い出してみようかな」

律「ポジティブ唯再誕だな」

律「で、肝心の憂ちゃんだけど、今の時間何やってるんだ?」

唯「家にいると思う。多分ご飯は食べれてる。あっ、でも昨日は迷子になって隣町まで行っちゃったし、今日も何か……」

律「ふむ。そうか……」

律「とりあえず、この場はもうお開きということにしますか」

唯「二人共ごめんね。私のために設けてくれたみたいなのに」

律「唯のために開いた会なら、閉める時も唯のためだ。だがしかし、これはあくまでも貸しっつーことを忘れるなよ」

唯「りっちゃんきちくー」

律「大人の厳しさと言えい。ともかく、今は早く憂ちゃんの元に行ってやりなよ」

梓「そうですよ。ちなみに私もついていきます。といいますか、行ってもいいですか?」

唯「え、あずにゃんもくるの!?」


130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:17:49.50 ID:LqpTs3Q1P
梓「いけませんでしょうか……」

唯「ううん。そんなことないよ。ちょっと驚いただけ」

唯「確かね、回顧治療っていうのが用いられることもあるみたいだし。来てもらえるなら凄い嬉しいよ」

律「まー梓は高校からほっとんど体型変わってないみたいだし、うまくいくかもな」

梓「そっ、それは律先輩だって同じようなものじゃないですか!」

律「残念ながら私は着痩せするタイプに成長したのだよーん。見たいか? まぁここじゃ脱がないけどな」

梓「むぅ。いつか確かめてやるです……」

唯「あはは。それじゃ、そろそろ」

律「おう。次回は落ち着いた頃に会を開こう。けどまた一年後っていうのはちょっと遠すぎる気もするけどな」

唯「うん。次は潰れるまで付き合うよ」

律「期待してるぜ」

唯「ありがとう、りっちゃん。行こう、あずにゃん」

梓「はいです」



136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:24:02.33 ID:LqpTs3Q1P
 プルルルル ―― ピッ

唯「もしもし平沢です」

さわ子『もしもし私よ。今空いてるわよね、ちょっと話しましょう』

唯「まだうんともすんとも言ってないんですけど」

さわ子『空いてるって分かってるからいいの。あなただって、そろそろ電話がくるんじゃないかなーって、予想してたんじゃない?』

唯「まぁそうですね。今夜の飲み会は、さわちゃんが誘発させたようなものなんだし」

さわ子『その通り。少しは気がほぐされたと思うけど』

さわ子『それで、今後の見通しはどれくらい立ってるのかしら?』

唯「はい。とりあえず近いうちに病院には連れていくつもりです。
  診断結果とその後の経過次第で、デイケアや養護ホームのお世話になろうかと」

さわ子『そうね。それしかないというのが現状だけど……』

さわ子『けど、憂ちゃんの年齢だと介護保険制度の対象にならないのが辛いところね。
    障害年金が支給されても、平日の全てでデイケアを利用するとなれば確実に不足が出るわ。
    そうでない日は丸一日つきっきりになる。憂ちゃんでも入れる養護ホームは……言わないでも分かるでしょう』

唯「はい。でも可能な限り一緒にいた方がいいと思ってます。私も、きっと憂も同じ気持ちなんだろうし」



141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:34:15.16 ID:LqpTs3Q1P
唯「あ、ちなみに今夜はあずにゃんがうちに来てくれるんです。お泊まりセット用意してくるって言ってました」

さわ子『へぇ。というかあなた、あずにゃんだなんて、まだその呼び方から離れられてないの?』

唯「あずにゃんがいじけちゃうので離れない方向に決まりました」

さわ子『……そう。私にはよく分からないわ』

唯「ですよねー。……ねぇ、さわちゃん。いや、さわ子先生」

さわ子『なあに、平沢さん』

唯「私、分かったんです。大人になりきれてなかったって。今さっき気付かされました。
  飲み会の前に、あずにゃんの近況だけ先に聞いたんですけど、そこに少しも疑問とか、自分の意見を持つことができませんでした。
  けど飲み会の最中、りっちゃんは私が目にも止めなかったところをズバズバ指摘してました。ああいうのが、成長した大人なんだと思います」

さわ子『そう。それで』

唯「思慮深さっていうのかな。大人なら大人らしく、もっと考えてみようって。
  それで、私、今なら自分がしてきたことを説明できるような気がするんです」



143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:38:36.57 ID:LqpTs3Q1P
唯「憂のため憂のためって思ってきましたけど、本質を突けば結局自分のためだったのかなぁって。
  仕事でうまくいかなかったり、鬱積する日常のイライラなんかを、全部憂に押し付けることで楽になろうとして。
  だから悪い意味で憂を手放したくなかったし、そう、自分を高い場所に置いとくために利用してたんです」

さわ子『そう。あなたがそう答えるならそうなんじゃない』

唯「あれ……。以外と冷たいんですね」

さわ子『責められる立場にいたら責めたかったけどね。でも私は、接点が一つあるだけの部外者だもの』

さわ子『私から教唆できるのは一つ。アルツハイマーにかかった人たちは、総じて底知れぬ喪失感に襲われるということ。
    けれど自分で自分を没することはできないから、その摩擦に苦しめられるのよ』

唯「例えば、憂は私を登校させようとするにも関わらず、憂自身が登校しようとする頻度はずっと少ないこと。ですか?」

さわ子『その通り。きっと脳の神経が解釈をいいようにねじ曲げてるんだわ。病魔によってその神経が死ぬと、また結ばれちゃうのよ』




145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:41:36.71 ID:LqpTs3Q1P
唯「憂は、私が卒業できた大学に躓いたことがよほど堪えたんだと思います。だから都合の悪い、大学に関する記憶が真っ先に消えちゃった。
  高校生活の途中に、家にこもって半年暮らした記憶がかぶさって、そこが混乱する理由だと思うんです」

さわ子『なるほどね。でもね平沢さん、事態は刻々と変わっていくわ。これからもっと酷くなる可能性だって』

唯「はい。でも周りの人間が和らげてあげることはできます」

さわ子『そう。そうでしょうね。でも共倒れしない程度に、ほどほどにね』

唯「分かってますよっ。んでもさわ子先生、アルツハイマーについて随分と詳しいんですね」

さわ子『そりゃあ教師だもの。それくらい知ってて当然なのよ』

唯「ふーん。音楽教師なのにですかー?」

さわ子『茶化すのはよしなさい』

唯「えへへ。それじゃあ、もう家の前なので切りますね」

さわ子『はいはい。私も忙しいんだから切るわよ。またね』

 ピッ

唯「よしっ。うん」

 ガチャッ

唯「ただいまー。うーいー! 帰ってきたよー!」

唯「……憂?」



157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:49:40.81 ID:LqpTs3Q1P
唯「憂? うーいー」


唯「ういっ!」

憂「……ぽー」

唯「あ、いた。よかった……。お昼ご飯ちゃんと食べた?」

憂「……ぽけー」

唯「おーい。おねむなのかな? 寝てるなら寝てるって返事しよう」

憂「……今何時?」

唯「んもう、起きてるなら起きてるって言おう! 今はね、夜の七時だよ」

憂「夜なんだ」

唯「憂、昨日はごめんね。お姉ちゃん、ちょっとどうかしちゃってたかも」

憂「昨日?」

唯「無理に思い出さなくてもいいよ。ゆっくりゆっくりね」

憂「……そうなんだ」

唯「あっ、今日の夕飯は三人で食べることになったんだよ。もう三十分もすれば来ると思うけど」

憂「三人……。誰?」


160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:51:49.73 ID:LqpTs3Q1P
 ピンポーン

唯「あっ、きたきた。一緒に迎えにいこ」

憂「うん……」


梓「こんばんわー」

唯「やっほぉあずにゃん! いらっしゃい。さぁ上がって上がって」

梓「お邪魔します」

梓「……憂、やっほぉ」

憂「えっ、あの、えと……」

唯「どうしたの、憂。そんな他人行儀になっちゃって」

憂「え、だって……」

梓「久しぶり、にはならないのかな。分かるよね。私だよ。あ、あずにゃんだよー」

唯「憂、もしかして……」


憂「どちら様ですか? ねぇ、お姉ちゃん、この人誰なの?」


167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:56:32.56 ID:LqpTs3Q1P
梓「そんな……」

唯「……」

唯「わ、私の友達だよ! 中野梓ちゃんって言ってね、猫みたいで可愛い子でしょ?」

唯「憂とも会ったことあるはずなんだけど、顔を直に合わせたことが無かったから……うまく思い出せてないだけだって!」

憂「そうなんだ……」

憂「すいません中野さん。あねーちゃんがお世話になっているようなのに」

梓「い、いえ。全然気にしないで。あ、いや、気にしないで下さい。ホント全然……」

唯「と、とにかく入った入った! ねぇ、とりあえず夕ご飯にしない? あずにゃんはもう食べれる?」

梓「……はい。空きっ腹に水分ばかりだったので、入るには入ります」

唯「じゃあ早く二階へ上がった上がった。今日は特製の出来合いディナーだよっ」

梓「無駄に豪勢そうに言わなくてもいいような気が……」

唯「細かいことは気にしないの。腹が減っては戦はできぬだよ」

憂「……」


171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:02:03.36 ID:wS+/wJsvP
梓「ご飯おいしかったなー」

憂「……」

梓「お腹一杯になっちゃったなー」

憂「……」

梓「ねこふんじゃったー、ねこふんじゃったー」

憂「……」

梓「……」


梓「あの……唯先輩。私にも洗いもの手伝わさせて下さい」

唯「だめだめー。客人はリビングでお腹を休めてなさい」

梓「でも、どうにも向こうは……。その、憂が」

唯「憂が……?」


173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:05:09.94 ID:wS+/wJsvP
唯「テレビ見てるだけみたいだけど」

梓「そうなんですけど、少しも反応してくれなくて……」

梓「といいますか、食事の時からどこか変だったじゃないですか。
  遠くを見つめてたかと思うと、はっとして意識が戻って、きょろきょろと辺りを見回したり……」

梓「私、やっぱり来ない方がよかったのでは……」

唯「違う、違うって。いつもはもっと口数多いし、自分から動こうとするはずなんだけど……」

唯「きっと、昨日の夜のことがこたえちゃってるんだと思う」

梓「昨夜に何かあったんですか?」

唯「うん。喧嘩っていうか、一方的に私から怒鳴っちゃって。死んじゃえみたいなことまで言っちゃって……」

梓「それは……なんとも」

唯「記憶には残ってなくても、傷跡は抉られたまんまなのかな」

梓「そんなこともあり得るんですね……」


177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:08:18.15 ID:wS+/wJsvP
梓「さてと、これくらいでいいでしょうか」

唯「うん、そだね。後はお菓子でも食べながらテレビでも」

憂「あれ、梓ちゃん、いつからいたの?」

梓「えっ……えええええええええっ!?」

梓「いや、さっきからずうっと……。っていうか記憶が」

唯「や、やだなー、憂ったら。テレビに夢中になりすぎて、あずにゃんが来たの分からなかったのー?」

憂「えっ、そうだったんだ……。ごめんね、梓ちゃん。私ちょっとぼうっとし過ぎてたかも」

梓「き、気づいてくれたなら別にいいよ」

憂「あ、そうだ。お姉ちゃんもうお風呂入った?」

唯「ううん。まだだけど」

憂「もう。先に入っちゃって」

唯「ごめんねぇ、今すぐ入ってくるから。……あずにゃん、いいよね」

梓「あ、はい。分かりました」

憂「何を二人で確認とってるの?」

唯「大したことじゃないから。別に何でも」



179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:11:02.25 ID:wS+/wJsvP
唯「ぷはー。いいお湯だったー」

唯「ってあれ、あずにゃん一人?」

梓「あ、おかえりなさい。あの、できるだけ憂から離れないようにと思ったのですけど……」

梓「私の布団を敷いてくるからと。それで、ついていこうとしたのですけど、客人だからと強く反発されてしまいまして……」

唯「そっか。あ、ちなみに憂はどの部屋に布団を敷くって?」

梓「自分の部屋だそうです」

唯「まっ、そうなっちゃうよね。あずにゃん寝るときはよろし……」

唯「ふあぁあぁあぁ……。あくびが……」

梓「もしかして、唯先輩おねむですか?」

唯「うん、まぁ。体がぽっぽしてるし、昨日は早いうちに寝ちゃってたから」

梓「唯先輩は昔から早寝するタイプでしたもんね」

梓「ちなみに、明日もお仕事あるんですよね?」

唯「うん。本当は有給取って憂を病院に連れて行きたいんだけど、私でも急に抜けるのはまずいし……」

唯「だから、たくさんサービス残業して連休取ってこようかなぁって思ってたんだけど」

梓「……あの、もしよければですが、私に任せてもらえませんか?」



183 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:13:02.96 ID:wS+/wJsvP
唯「憂を、だよね?」

梓「はい。明日なら何の予定も入っていませんし、一時的かもしれませんが、記憶は戻ってるみたいですし」

梓「もしまた忘れられたとしても、私ならなるだけ危害が薄そうだと見られるはずです。いいでしょうか?」

唯「……うーん。今の憂を一人にしておくのは、たった一日でも危険を伴なうよね……」

唯「うん。あずにゃんさえ良いのならお願いしたいな」

梓「はい。任せて下さい! 不審者と思われたら不審者らしく、憂の遊び相手になりましょう!」

唯「さっすがあずにゃん頼もし、ふわああぁあぁぁ……」

唯「またあくびが……」

梓「ですから、もうお休みして下さい。寝不足ですと後から響いてきますよ」

唯「んん。そうしよっかな」

唯「後は任せるよ、あずにゃん。帰れそうな時間が分かったらメールするから」

梓「はい。任されましたです」


184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:13:41.38 ID:AXlBjwXwP
嫌な予感しかしません


 
186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:17:41.80 ID:wS+/wJsvP
 チュン チュン

唯「ほわああぁ。おはよー」

梓「あ、おはようございます。よく眠れましたか?」

唯「うん。たっぷりぃ。寝過ぎて逆にまだ眠いくらい……」

梓「なら顔洗って歯磨いてしゃっきりしてきて下さい。今日は頑張る日なんですよね」

唯「うんうん。今日は頑張るひー」

唯「って、おおう。もう朝ご飯が食卓に並んでるっ」

梓「キッチン使わせてもらいました。中野家の朝食ですけど、良かったら食べて下さい」

唯「もちのろんろんだよ」

唯「いやぁ、あずにゃんはきっといいお嫁さんになれるよ。私が保証してあげる」

梓「それはどうもです。でも、一口食べてみてから判定して欲しかったですけどね」

唯「ありゃ、ごめんねぇ。顔洗ってくる~」
200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:24:08.55 ID:wS+/wJsvP
唯「ぱくぱく。もぐもぐ。ごっくん」

唯「おいしー。やっぱりあずにゃんはお嫁さんの素質あるよ」

梓「……どうもです。でも唯先輩だって、全く料理をしないなんてことはなかったんじゃないですか」

唯「んー。だけど、私は努力して美味しい料理作ろうなんて思ってこなかったから」

梓「そうなんですか。お仕事忙しいなら仕方がないんですかね」

唯「うん、まぁ。それで……憂はまだ寝てるんだよね?」

梓「ぐっすりです。唯先輩が家を出るまでは絶対に起きないと思います」

唯「てことは、昨夜は結構夜更かししちゃったんだ」

梓「まぁ、日付変更線は過ぎてましたね。深夜アニメ見てからお布団に入りましたし」

唯「ふぅん。他には二人でどんなことしてた? 腐ったスフレは食べてないよね?」

梓「……そんなものがあるんですか。だいたい家の中を探検したり……あ、でもお風呂にはちゃんと入りました」

唯「そっか……。探検っていうのはうまい言い方だね」

唯「実を言うと、昨夜も探検してたみたいなんだけど。あずにゃんがいたから、平気かもって思ってたんだけど」

梓「みたい、というのはどういうことですか?」


202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:26:15.46 ID:wS+/wJsvP
唯「朝起きてから跡を見つけたんだ。床に、涙と鼻水でぐっしょりな水たまりがいくつもあって……」

唯「私がぶつけたストレスを、何らかの方法で解消しなきゃってなった結果なんだよ。きっと」

梓「……そうだったんですか」

梓「でも昨日の憂は、悲しそうな感じには見えませんでした。あれから呆けることもなかったですし」

梓「あ、そうだ。何故かいの一番に大きな亀のぬいぐるみを引っ張り出したりしてました。
  唯先輩たちが修学旅行に行っていた時、憂がホームランを出して獲得したやつです。
  お布団に入ってからは、その日の思い出話で盛り上がって、まるで昨日あったことみたいにお喋りしてました」

唯「……ねぇ。もしかして、憂はそのまま、いつの間にか寝ちゃったって感じ?」

梓「はい、そうでしたけど」

唯「純ちゃんがどうとか口に出してなかった?」

梓「話題には一応出てきましたけど、おおよそ疑問を抱くようなところは無かったと思いますけど」

唯「んー。やっぱり考えすぎかな。うんうん、あんまり気にしないで」

唯「って、早く支度しないと出勤遅れるじゃん! 急げ急げいそいそそそ」

梓「成長してるんだかしてないんだか分かりませんね」


214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:31:40.41 ID:wS+/wJsvP
唯「あっ、おばあちゃん」

とみ「あら、唯ちゃん。おはよう」

唯「おはようございますっ」

とみ「まぁ、今朝はとっても格好いいスーツね。よく似合ってるわよ」

唯「ありがとうございます。今度からは、毎朝これで社会に出ていけるかなぁって」

とみ「そうかいそうかい。もう、お婆ちゃんが余計な心配をすることもなさそうだね」

唯「はい。色々気を使ってもらってすいませんでした。もう大丈夫です!」

とみ「まぁたくましいこと。こんな若者ばかりだったら、私の孫の世代までは安心できるねぇ」

唯「えへへ、そうかなぁ……」

唯「でも、でもね、私は凄い恵まれた方だと思うんだ。お婆ちゃんからも心配してもらったし、友達からも助けてもらったし。
  アルツハイマーの人も、その人を介護する側でも、支えが欲しくても見つからない人はずっとたくさんいると思うんだ。
  運良く拠り所を見つけられた私が、単純に喜ぶだけっていうのはちょっと違うかなぁって思って……」

唯「だからね、もし同じように困ってる人がいたら、貰った優しさを分けてあげたいんだ。
  一本なら倒れちゃっても、二本三本合わさればきっと丈夫になるはずって昔の偉い人も言ってたはずだから!」



217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:34:09.39 ID:wS+/wJsvP
唯「……なんて偉そうに言っちゃったけど、じゃあ何をするかなんてすぐ浮かんでこないし、今は自分のことで手一杯なんだけどね」

とみ「ううん。今はその気持ちさえあればいいのよ。あなた人生まだまだ長いんだから、じっくり考えてからでも遅くないわ」

唯「うん。……いや、はいっ!」

とみ「うふふ。私こそ偉そうだったかしら」

唯「ううん。ありがとうお婆ちゃん。私、今の気持ちを忘れないまま頑張ります」

とみ「そう。頼りにしてるわ」

唯「じゃ、お婆ちゃんまたね。いってきます」

とみ「はいはい。いってらっしゃいね」


218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:35:17.75 ID:wS+/wJsvP
唯「企画書コピーし終わったら人数分の冊子を作ってー、っと」

唯「廃棄書類はさっさとシュレッダーにかけてー、っと」

唯「下請けさんの定時報告まとめを片付けてー、っと」

唯「ふぅ……。忙しい忙しい」

「やぁ、平沢君。今日は精が出てるね」

唯「あ、部長。あの、休暇の件見ていただけましたか?」

「ああ、うん。君はまめに働いてくれてるからね、了承しておいたよ」

唯「ありがとうございます」

「それにしても、随分と長くとるみたいだけど、大事でも起こったのかい?」

唯「はい、少し。妹を病院に連れていく必要があるので、それで結果によっては側に……」

「なるほどね。君が早く戻ってきてくれることを願ってるよ。妹さんにもよろしく」

唯「はい。ありがとうございます。ですから今日はやれるだけの……」



「平沢さーん。お電話でーす」



226 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:39:49.07 ID:wS+/wJsvP
唯「あ、はーい。まわしてくださーい」


唯「もしもし。お電話かわりました、平沢です」

さわ子『もしもし、私桜高の山中さわ子よ。お仕事中にごめんなさい、携帯には何度かかけたんだけど繋がらないから。
    この番号にかけるのにも躊躇はしたんだけど……』

唯「いえいえ、もう受話器取っちゃいましたからいいですよ」

さわ子『そう。本当に悪いわね。でも、それ以上に悩ましいことが、こっちでは進行形で起こってるのよ』

唯「ということは、つまり……」

さわ子『憂ちゃんがきてるわ。付き添いの中野さんも。もう一時間以上も校門の前で粘ってるのよ』

唯「……憂の様子はどんな感じですか?」

さわ子『にべもないわね。大声を上げるものだから、近隣住民も、生徒たちからも訝しく見られてるわ。
    私が出てなんとか抑えてたんだけど、今職員室に戻ったら、警察を呼ぶべきかどうか話し合ってるの』

唯「そうなんですか……」

さわ子『監督責任者として聞きたいわ。どうする? どうして欲しい?』

唯「私は……」


232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:43:32.94 ID:wS+/wJsvP
唯「行きます。今すぐに」

さわ子『そう。なら先生たちはなんとか抑えてみるわ』

唯「はい。お願いします」

唯「……あの、さわ子先生」

さわ子『うん?』

唯「先生には、先生としての立場と仕事があるのに、色々とすいません」

さわ子『何言ってるのよ。今こうやって人様のお仕事に待ったをかけてる私が、そうですねと同意できるわけないでしょう』

唯「あぁ。考えてみればそうでした」

さわ子『全く。もう切るわよ』

唯「はい。また」



唯「……あの、部長」

「分かってるよ」


236 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:44:32.74 ID:wS+/wJsvP
「妹さんのことだろう。すぐに行ってやりなさい」

唯「はい。すいません、突然に」

「いいんだよ。予定通りに進むばかりが人生とは限らない。残りはまわりの誰かに引き継がせておくから」

唯「部長……」

「ほら、早く行った。君の席が無くなるわけじゃあないんだから」

唯「はい。ありがとうございました!」


243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:46:23.66 ID:5K9err4i0
この部長になら掘られてもいい




246 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:48:35.29 ID:wS+/wJsvP
唯「はぁっ、はぁっ」

唯「いた……憂……」


憂「何度言ったら分かるんですか! 私は桜高の生徒なんです! いい加減に通して下さい!」

「いや、だからね、もう少しよく思い出して……」


唯「……憂、もういいよ」

梓「唯先輩!? 会社に行ったはずじゃあ……」

唯「さわちゃんから連絡貰って飛んできたんだ」

梓「そうなんですか……。すいません、任せろなんて言ったのに、引き止めることができなくて……」

唯「ううん、あずにゃんのせいじゃないよ。憂の側にいてくれてありがとう。後は私に」

憂「ちょっとお姉ちゃん! 何で校舎の中にいないの? 何でスーツなんて着てるの?」

憂「勝手にズル休みなんてして! そんなに悪い子に育てた覚えなんてないよ!」

憂「どうしてお姉ちゃんは何でなの、どうして……」

唯「憂……。混乱してるんだね」


249 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:51:47.63 ID:wS+/wJsvP
梓「憂は、起きるとすぐに純がいないって騒ぎ出したんです。唯先輩の言ったとおりでした」

梓「思えば私がきちんとしたお泊りに行ったのは、あの雨の日限りでした……」

唯「そっか。だから一部だけ蘇ってきて」

憂「二人とも何話してるの? いいから早く、今ならまだ遅刻で済まされるから」

唯「憂、あのね、よく聞いて。憂はもう高校生じゃないんだよ」

憂「……何言ってるの。そんなことあるはずないよ」

唯「今は分からなくてもいいよ。これからじっくり、時間をかけて頭に入れていけばいいからね」

唯「憂は出来る子なんだから、すぐに物分りがつくよ。お姉ちゃんもできるだけ協力するから。ね?」

憂「なに……なんなの……」

唯「自分が分からなくて凄く怖いんだよね。大丈夫。憂は憂のままここにいるんだから」

唯「私がちゃんと見てるし、今はあずにゃんだって側にいてくれてる。恐がることなんてないんだよ」

憂「……嘘」

憂「うそ、うそ、うそ! 何でそんな嘘言うの……! もう何も分かんない! みんな嘘! お姉ちゃんの嘘つき!」



 バヂンッ!


252 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:54:11.81 ID:wS+/wJsvP
梓「だ、大丈夫ですか? 唯先輩……」

唯「……はは。生まれて始めて妹にぶたれちゃった……」

憂「お姉ちゃんはそんな、偉そうに言ったりしないもん。今のお姉ちゃんは全然知らない人だよ」

憂「だってお姉ちゃんは、いっつも家でごろごろしてて、私がお世話してあげないといけなくって」

憂「私が作った料理をおいしいおいしいって言ってくれて。子供みたいにアイスをねだって」

憂「そんなところが可愛くて、もっともっとお姉ちゃんに色んなことしてあげたくなっちゃうから」

唯「……」

憂「でもギー太を弾いてる時のお姉ちゃんは誰よりも格好良くって。そこもまた大好きで」

憂「お姉ちゃんはお姉ちゃんだもん。ずっと変わらない私だけのお姉ちゃんで平沢唯なんだから」

梓「憂、いれ以上言うと唯先輩が」

憂「ううん、もっとあるよ。私、ちゃんと知ってし。例えば一緒のマフラーで」

唯「憂ッ!! もうやめなさい!!」

梓「だ、駄目です! 手を上げるのは」



 ぎゅっ




260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:56:46.54 ID:FnahOaVB0
ぎゅっ

憂「あっ…く、くび…がgtp:ああg:pうぇgごそえjら@mt2wまがんうぇtp;3jm2わ」

唯「もう…いいの…」

梓「唯せんぱい!!!?」


271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:01:47.84 ID:wS+/wJsvP
憂「お、お姉ちゃん? 苦しいってば……」

唯「そうだよ。憂は苦しいんだよ。だから私も同じだけ苦しい。だって、姉妹……だか、ら……」

憂「……泣いてるの?」

唯「……うん。憂は、どんな顔してる? 耳しか見えないよ」

憂「私は……なんだろう。よく分かんない」

唯「もう、おとといので、涙は枯れちゃったのかな」

憂「……どうなんだろう。多分、悲しいんだと思う」

憂「でも、お姉ちゃんの身体はあったかい」

唯「はは。始めから、口先で誤魔化すより抱きしめるべきだったのかな」

唯「憂、なんにも心配いらないよ。大好きなおねーちゃんはここにいるから。今は余計なこと考えなくていい」

憂「……うん」


276 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:04:38.06 ID:wS+/wJsvP
さわ子「ちょっと、そこのアツアツ姉妹さん」

唯「あ、さわ子先生」

さわ子「やっと抜けだしてきたけど、どうにか纏まったってことでいいの?」

唯「はい。おかげさまで」

さわ子「そう、良かった。と言いたいことろだけれど、あまり時間はないわ。
    昼休みで生徒が校舎から出てくる前に移動しないとパトられちゃうかもしれない」

さわ子「それで、丁度いいことに今の私はフリーなのよねー。どこか車で乗せていって欲しいところとかあるかしら?」

唯「それなら……」

唯「ねぇ、憂。お姉ちゃんに付いてきて欲しいところがあるんだ」

憂「……どこ?」

唯「憂と私が、私たちを見つめ直すところ」

憂「見つめ直す?」

唯「うん。これから二人が生きていくために必要なところだよ」


唯「……病院、いこっか」


283 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:08:01.54 ID:wS+/wJsvP
 ――

 ―― ――

律「なんだよ今日は二人だけかよー」

唯「私じゃ不満だっていうのー?」

律「いやいや、そんなことはないがな。ないが! ムギが前日キャンセルとかな……」

唯「大事なお仕事の予定が入っちゃったんでしょ?」

律「うん……。まぁそうらしいんだけど。せっかく久しぶりに顔が拝めると思ったからさぁ」

唯「少し時期がずれるだけだって。会えなくなるわけじゃあないんだから」

律「……唯はすっかり仏様みたく寛容になっちまって。あぁ悲しきかな。私だけが置いて行かれる……」

唯「今日のりっちゃんはなんともネガティブだね。この前は私を散々元気づけようとしてくれたのに」

律「生まれて始めて告白して振られましたな二十五歳の千秋楽……。ううぅ、わーん!」

唯「ふむぅ……。なら飲んで充電するしかないね! そーれそれー」

律「おくひにちょくへつそそくのはやめへぇっ!」



286 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:10:20.39 ID:wS+/wJsvP
律「で、結局憂ちゃんのことはどうなったんだ?」

唯「うんとね、あの日にさわちゃんに病院まで送ってもらって、診てもらったよ。飛び込みだったから随分待たされちゃったけど」

律「きちんとした告知もしたのか?」

唯「うん、したよ。その時のことを、今覚えてるかどうかは定かじゃあないけど」

律「そうか……。大変だったな」

唯「でも憂は泣き喚いたりしなかったよ。きっと、前から薄々感じ取っていたんだよ」

唯「その次の日は、あずにゃんとさわちゃんに手伝ってもらって一連の手続きを終わらせられたんだけど」

唯「あっ、でね、その最中に知ったことなんだけど、さわちゃんのお母さんも認知症だったんだって」

律「……なるほどな。どうりで詳細に知ってたわけだ」

唯「もう亡くなっちゃったみたいなんだけどね。で、そのお母さんのいた養護ホームに、今憂はいるんだ」

律「例の、デイケアじゃ無理そうだったってことか」

唯「うん。ちょっとね……」



唯「憂の頭の中から、私まで消えちゃったみたいだから」

律「えっ?」




304 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:13:38.15 ID:wS+/wJsvP
律「唯……。そんな、本当なのか……」

唯「本当のことだよ。時折様子は見にいくけど、回復の兆しはないみたい」

唯「その施設は見るからに清潔なところでね、白に覆われた建物で、海が近くにあって、天国みたいなところなんだ。
  この前、車椅子に座った憂を遠くから眺めてたけど、なんだかそこで完結しちゃってる空間を見てるようだった」

律「……今の憂ちゃんにとっては、それが一番の平穏なのか」

唯「だね。その平和が守られ続ければいいんだけど」

律「……なぁ。そいつは、結構金のかかる施設なんじゃないか?」

唯「うん、まぁ。でも障害年金とか、私のお給料から捻出すればギリギリやっていけそうだよ」

律「そうか。金なら、もし消費者金融を利用したくなるくらい逼迫したら、まず私に相談しろよな」

唯「はいはい、ご贔屓にお願いね」



310 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:16:50.72 ID:wS+/wJsvP
唯「りっちゃんからの報告も早いとこ聞いちゃいたいな。べろんべろんになった後じゃ遅いだろうから」

律「私の肝臓は宇宙だがな。まぁ先に言っといた方がいいか」

律「放課後ティータイム再結成の件」

唯「今じゃ、勤務後の方が意味合いあたってるかもしれないけど」

律「だな。で、二人に連絡を取ってみるとだな……二つ返事で、やりたい!! って言われちまったよ」

唯「おお! 本当に再結成できそうだね!」

律「スケジュール合わせとかはまだ全然だけどさ、みんな前向きなんだ、近いうちに全員揃って演奏できると思う」

唯「はいはい。ムギちゃんのお菓子食べる、も追加で」

律「んなもん個人的にこっそりお願いしとけー!」

唯「でへへ、めんごめんご」

唯「……あれ? あずにゃんには聞かなかったの?」

律「いんや。向こうからお断りされちゃったよ。今のバンドが満足にいってないのに、他のバンドにかまける余裕なんてないそうだ」

律「しかし、きっちり対バンは申し込まれたけどな。こちとらまだ顔合わせにまで漕ぎつけてないのに、ひでーもんだ」

唯「あはは。でもいつかやりたいなぁ。ライブハウスで、あの冬の日に戻ったみたいに」

律「ああ。きっと遠からず実現するよ」



314 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:19:05.01 ID:wS+/wJsvP
 チーン

「毎度ありがとうございましたー」


律「さぁて、明日も仕事だ。早く帰っておやすみしますかぁ」

唯「明日も残業だあぁ」

律「働く女は辛いなー」

唯「辛いからこそアルコールが染みるんだけどね」

律「んだ。千鳥足のうちに我が毛布へと飛び込もうぞ」

唯「うん。それじゃりっちゃん、また」

律「おう。お互いがんばろーぜ」



334 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:29:18.76 ID:wS+/wJsvP
「いらっしゃいませー。お願いしまーす。キーホルダー等、色々ありますよー」

唯「あ、あれってもしかして……」


唯「すいません。あの、ここに並べられてるものって……」

「はい。養護ホームさくらの里の方たちが作ったものなんです。障害のある方もいるのですけど、
 こうやって工芸品などを作って、外の世界との繋がりを持とうっていう企画なんです」

唯「そうなんですか。どれも細かく作りこまれてて、綺麗……。とても障害のある人が」

唯「て、あっ! このギターのキーホルダー!」

「気に入られましたか?」

唯「これ、レスポールだ。私が使ってた、ギー太と同じ色してる……」

「これは、一段と細部まで極め細やかみたいですね。作られる物っていうのは、作る人の心の影響を受けるものらしいですよ」

「ちなみに裏には、その方が作った証明に、イニシャルが掘られていたりするんです」

唯「裏に、イニシャル……」


 U.Y


唯「……買います。これ、下さい!」



356 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:38:14.75 ID:wS+/wJsvP
唯「憂と私は、もう遠い遠い存在になってしまったけど……。
  けれどあなたが生きた証は、ずっとこの胸に詰まっています。
  そしてキーホルダーなんて子どもじみたもので繋がっていると信じています」

おわり

371 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:40:55.03 ID:iPEsE5Qy0
乙!


372 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:40:59.22 ID:zIpXK96h0
駄目だ… 元気な憂の画像を見て落ち着かないと寝れない…


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