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Recycling

yuti

285 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/05/23(土) 09:45:13 ID:k0g0zzoR
律視点の律澪で投下します
若干シリアスっぽいです



286 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/05/23(土) 09:46:05 ID:k0g0zzoR
放課後の部室で私と澪は斜向かいになって座っている。私は音楽雑誌を読み、澪はイヤホンで音楽を聴いている。
唯はさわ子先生の特訓で不在。紬は文化祭のお化け屋敷に使う道具の買い出しに出掛けるので遅れるということだった。
それでも練習はできるはずなんだけど、習慣になっていたお茶とお喋りがないとなんとなく始めるきっかけがつかめない。
部室はまだ夏らしい陽差しに白く照らされているけれど、山側の窓から吹き込む風はひんやりとしている。
いつもはムギの持ち込むお菓子やティーセットで賑やかな机も今日は木目を晒すばかり。
私はすっかり読み尽くしてしまった雑誌を放り出すと澪に話しかけた。
「唯は大丈夫かなぁ」
「え?何、ごめんもう1回言って」
澪は着けていたイヤホンを外して聞き返してきた。
「さわ子先生の特訓ってどんなことやってんのかなって」
「確かに心配だけど……唯はああいうノリは馴染まないんじゃない?」
「いやー、唯は染められやすいからなぁ。あの歌詞で歯ギターとかやられたら……」
多分その時の観客の視線を想像したんだろう。澪はひっと嗚咽を漏らした。
「やめて、見ないで見ないで見ないで……」
「……また始まっちゃったよ」
本当言えば私は唯のことをそんなに心配してたわけじゃなかった。ただ退屈でちょっと澪を脅かしてみたくなっただけ。
けど澪の怯えた顔を見ると可愛いなと思う反面、胸がしめつけられるような罪悪感もあって、私は席を立つと澪の側に寄って背中に手を置いた。
「ほら落ち着けって。そんな事されて困るのはさわ子先生も一緒だしさ、大丈夫だって」
「そうかな……?」
「そうだよ」
こういう所澪は全然変わらない。頭も良いし外見も大人っぽいけど、ちょっと怖い事や恥ずかしい事を想像するとすぐにこう。
もし私がいなかったらどうなっちゃうのかなと思う。自信過剰かもしれないけど、唯やムギじゃまだ一緒にいる時間が全然足りてないもんな。
ちょっとして澪が正気を取り戻すと私は澪の隣の椅子に勢いよく腰を下ろした。



287 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/05/23(土) 09:48:45 ID:k0g0zzoR
「あー、退屈だなぁ」
「じゃあ練習しろよ」
「澪だって何もしてないじゃん」
「私は確認したい所があって聞いてたの」
「うそー」
気怠く返事をすると私は机に突っ伏した。それにつられたのか澪も揃えていた足を投げ出して椅子の背に深くもたれかかった。
校庭ではランニングにいそしむ運動部員達が必死に声を張り上げているけれど、防音壁に閉ざされた音楽室にはその熱気も届かない。
「なんか初めてここに来た日みたいだな」
澪がぽつりと呟いた。確かにあの日も二人きりで日が暮れるまでぼけーっとしていた気がする。
「あの時はムギが来るまで随分待ったなー、っていうかムギまだかよー」
授業が終わってからもう一時間半はたっている。道具係ではなかったけど、こんなことなら私も一緒に行けば良かったな。
「ねえ、ムギと言えばさ……律、あれって結局どういう意味だったのかな?」
頭の中で必要な道具の数々を反芻していると、澪がなんとなく気まずそうに切り出した。
「あれって、女の子同士っていいなあってあれ?」
澪は小さく頷いた。まあ、やっぱり気になるよな。
「ムギが女の子を好きってわけじゃないんだよね?」
「仲良くしてるのを見るのがいいってことだろ……正直良くわかんないけど」
まあここはさわ子先生のファンクラブがあるような所だから、少し耳をそばだてれば女の子同士のお付き合いについての噂も色々と聞こえてくる。
けどムギみたいな趣味の人は全く想像したこともなかった。
「そうだよな、そういうことでいいんだよな」
「ムギも変わってるよなー。ま、それも個人の趣味だからいいんじゃないの」
「……でも、さ……もしかしてだけど、いや、やっぱいい」
澪は急に顔を赤くして口を濁した。これは私の経験上、何かエロいことを考えてる時の表情だ。
「何だよ、気になるじゃんかよー」
私は澪の顔を下から覗き込んだ。けど澪は自分の手元をじっと見つめて目を合わそうとしない。
「いいってば、たいしたことじゃないし」
「大したことじゃないんだったら言ってみって」
少しの沈黙を挟んで澪の唇が開いた。
「じゃあ言うけど……ムギってもしかして私達でも想像してるのかな」
「へ?」
「だから私と律も女の子同士のそういう関係に見られたりするのかなって」
「あはは、それはないっしょ。私達のどこがそんな風に見えるっていうんだよ」
私はつい吹き出してしまった。澪はともかく私はムギの好みじゃないだろ。
ただのイメージだけど、ああいうのってもっとお嬢様っぽいおしとやかな人が似合うんじゃないの?
ムギお気に入りのさわ子先生だって実態はともかく、見た目はそんな感じだし。
「私達は幼馴染みだし、それに律って結構スキンシップ多いし……さりげなく手握ったり、抱きついてきたりするじゃん」
まあ確かに多いかなとは思う。けど私はその内容よりも澪がそんな些細なことを一々覚えていることにびっくりした。
そんなにムギの視線が気になるのかね。


288 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/05/23(土) 09:49:16 ID:k0g0zzoR
「そうかなー」
「わかんないけど、多分」
「うーん……ならちょっと実験してみない?」
ちょっとしたいたずらを思いついて、私は澪の方に椅子ごと身体を寄せた。
「実験って?」
「ムギに私達の仲を見せつけてやろうかなーっと」
そろそろムギが来てもいい頃合いだし、夕暮れの部室で二人きりなんてムギにとってみれば最高のシチュエーションだろう。
そっと左手を澪の頬にあてがい、右腕は腰に回した。くびれに肘がぴたっとはまるのがいい感じ。
薄いブラウス越しに体温がどんどん上がっていくのが分かるのも楽しい。
「ちょっ……何するんだよ」
「んー、ほら本当にムギが私達のことをそういう風に見てるのか気になるじゃん?」
「ばかっ、これじゃ誰が見たってそうとしか見えないだろ!」
「……しっ、足音がする。ほら澪静かにして」
耳をすますと、古い階段が軋むぎいぎいという音が段々と下から近づいてくるのがわかった。澪は諦めたのか私のされるがままおとなしくしている。
「澪、ちょっと首曲げて」
「…こ、こう?」
おふざけのキスはしたことあるけど、今回はそれじゃいけない。なるべく本物っぽく、唇がきっちり合わせられるように首の角度を微調整する。
カツンという堅い足音が聞こえてきて、ムギがもう扉の前にいることを知らせてくる。
最後にそっと澪に目配せして……その時私は初めて澪の様子がおかしいことに気が付いた。
こんな顔が近くにあるのに、あとほんの少しで唇が触れる距離にあるのに、澪の目が真っ直ぐにこっちを向いている。
普段の澪だったらこんな時、絶対に目を瞑るか逸らするはず。っていうか、ごつんと頭に一発食らっても全然不思議じゃない。
「えっと、澪……?」
「……めんね」
唇が何かの形に開いたように見えた次の瞬間、私の唇がふさがれた。
唇だけじゃない、胸も皮膚も全部澪の唇に埋め尽くされて、他の何もかも分からなくなってしまう。
それが怖くてまわしていた手に力がこもる。なんで、どうして、と声に出すことも出来ずに、私はただ目で澪に問いかけた。
けれど夜の池のような瞳には何の答えもなくて、ただどうしようもなく無防備な顔をした私が写っているだけだった。


289 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/05/23(土) 09:54:09 ID:k0g0zzoR
以上です。あざといと評判な澪ですが、こういうのもありじゃないかと思って書きました。
それでは失礼します


292 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/05/23(土) 11:03:38 ID:J2hrpOUU
>>289
これは恐ろしく続きが気になる…素晴らしや素晴らしや


295 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/05/23(土) 11:50:50 ID:RSHj13fr
>>289
こういう澪もいいなあああ!こっちまでドキドキが移ったww
自分も続き読みたいです。GJ!!!!!!


296 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/05/23(土) 11:57:02 ID:iYWo87F/
>>289
ちょ、ここで終わるとかww
頼むから続き・・・続きを・・・・!!

299 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/05/23(土) 13:16:10 ID:yCpNK8VM
>>289
GJ!
やっぱり澪→律はいいな
律が好き過ぎてやっちゃった感じがたまらなくドキドキしたw
音楽室に来たムギ?の反応も気になる…
ここで終わりとか……
続きをお願いします


全裸で待機するわ

300 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/05/23(土) 13:46:51 ID:lzU7bAj1
>>289
りっちゃん無防備すぎるw
このパターンもアリだな…続きも是非!



774 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/06/02(火) 01:54:37 ID:QgEUUhB1
割り込みになってすいません。
>>286の続きを投下します


775 :Recycling:2009/06/02(火) 01:58:10 ID:QgEUUhB1
淡雪のように優しくとろける、そんなキスを夢見ていた。
けれどファーストキスの後、私に残されたのは焼け付くような欲望と鉄のように頑なな唇の記憶だけだった。
律があんないたずらを思いつく所まではうまくいきすぎて怖いくらいだったのに、結局現実は小説のようにはいかなかった。
律は逃げた。倒れた椅子が私のしたことの意味をはっきりと突き付けてくる。欲望のままに唇を奪うなんてまるで痴漢のようだ。

「澪ちゃん……」

律が開け放しっていったドアの脇に呆然とした顔のムギが立っていた。
ムギに名前を呼ばれた途端本能に押し込められていた感情が一気に逆流して、私はたまらなくなって泣き出してしまった。
ムギは私の所に駆け寄ってくると黙ってハンカチで私の目元を拭ってくれた。
けれど涙はいつまでたっても止まる気配がなくて、ムギは私の手にハンカチを握らせると一人でお茶の準備を始めた。
しばらくして湯気を立たせた紅茶がなみなみ注がれたティーカップと、マドレーヌの乗った小皿が私の前に置かれた。
ティーカップの端に口をつけて紅茶を啜ると、鼻をぬける湯気が泣き疲れてひりつく喉を潤してくれた。

「どうしよう…ムギ、私、律にひどいことしちゃった」
「律ちゃんと、何かあったの?」
「……キスした、私のほうから、無理矢理」
「澪ちゃんって意外と情熱的なのね」
「そんなんじゃない。私はずるいんだ、ムギのことも利用したし」
「どんな風に?」
「ムギが私達のことも付き合ってるみたいに見てるんじゃないかって言った……そう言えば律も少しは私のこと意識してくれるんじゃないかって」

ムギの眉がぴくっと動いた。律を傷つけてその上ムギにまで八つ当たりして、今日の私はダメすぎる。

「澪ちゃんは昔から律ちゃんの事が好きだったの?」
「意識し始めたのは軽音部に入ってからかな……でも律が行くからこの学校に決めたって所もあるし、昔から好きだったのかもしれない」

普通に成績とか通学時間とかそういうことも考えたけど、最後に私を動かしたのは律だった。
だって当然のように「また三年間よろしくな、澪」なんて言われたら、しかたがないじゃないか。



776 :Recycling:2009/06/02(火) 01:59:31 ID:QgEUUhB1
「女の子を好きでいるのはつらい?」
「好きな人に好きになってもらえないのはつらいよ」

キスしたって聞いても表情一つ変えなかったムギが悲しげに目を伏せた。

「……律ちゃんが澪ちゃんの事を好きになるのってありえないことかな」
「ないよ、律は普通の女の子だもん。中学の時は男子の友達も一杯いたし、それに、男子と一緒に遊んでる時の律はすごく楽しそうだった」

一緒になって馬鹿をやれる友達、そんな建前に隠れて男子が何を期待しているか律だって分かっていたはずなんだ。
幸い中学時代に律が男子と付き合うことはなかったけど、もしもうちょっと気の利く男子がいたら、律は付き合うことに躊躇しなかったと思う。
そういう時の男子と女子は、まるでそれが運命だったかのようにすんなりくっついてしまうのだ。

「今まではそうだったかもしれないけど、律ちゃんは澪ちゃんの気持ちを知ったわ」
「知って、それで律は逃げたんだ、どうしようもないじゃない」
「律ちゃんにも受け入れるだけの時間が必要なのよ、だから今は待ちましょう、ね」
「待ったって何にも変わらない!もう友達に戻ることだってできない!」

律のいない未来なんて考えられない。けれどその未来は確実にやって来る。それが心細くて、怖くて、私はムギにすがりついた。
ベストを着たムギの身体はふわふわと柔らかくて、それがますます記憶の中の律の身体を引き立てた。

「そんなことない、律ちゃんは絶対澪ちゃんから離れたりしないわ。律ちゃんのことが好きなら、自分がどれだけ律ちゃんにとって大切な存在なのか分かるでしょう?」
「私だってそう思ってた、けどもう何もわからないよ。律は私の事怖がってた、もう私は律の知ってる私じゃない」
「一人で納得しないで、澪ちゃん」
「ムギにはわかんないよ!現実はムギが頭の中で考えてるみたいにうまくいったりしないんだ……!」

私は怒鳴ったつもりだったけれど、喉から出た声は拗ねた子供のように情けなく裏返っていた。

「わかるわ、澪ちゃんと律ちゃんはお似合いだもの……うまくいかないなんて、そんなことあるはずないんだから」

ムギの声も震えていた。ぽつぽつと私の頬に水滴が落ちた。混ざり合った私とムギの涙が集まって流れる。

「ごめん、ごめんね。ムギは慰めてくれようとしてるのに、こんなことしか言えなくて」
「私は二人が好きだし、この部が好きなの、だからあんまり寂しいこと言わないで」

この涙のように、心を一つにすることができたらいいのに。こんな身体なんてものがあるから、私はただ好きなだけではいられないんだ。
律、律は今どこにいるの?帰ってきて、いつもの笑顔を見せてよ。ねえ、律……


778 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/06/02(火) 02:09:41 ID:ywEFJSDA
澪切ない!!続きが気になります!!!!!


779 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/06/02(火) 02:20:19 ID:tcNvRmDb
男子って文字を見るだけで腹が立つ俺は病気



780 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/06/02(火) 02:37:31 ID:kQx6yN5M
>>777
あなたの文章めっちゃ好きだわ

330 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/06/21(日) 16:04:38 ID:2zGw2G+p
投下します。
随分前ですが澪が律にキスしちゃってぎくしゃくする話の続きです。
でもムギ視点で、あんま律澪してない……


331 :Recycling3 :2009/06/21(日) 16:07:04 ID:2zGw2G+p
 澪ちゃんの突然の告白の翌日、律ちゃんは学校に来なかった。担任の先生に理由を聞くと風邪だと
言います。無断欠席でないだけほっとしたけど、律ちゃんが仮病を使うなんて……ううん、そんな言
い方は良くないわ。律ちゃんにとっては身体の不調なんかよりずっと大変なことだもの。

「律ちゃんって風邪とかひかないと思ってた」
「まあ律ちゃんおばかだもんねー」

 普段お昼を一緒に食べるお友達もどこか寂しそう。ばかなんて言ってるけど、みんなおばかな律ち
ゃんが恋しいのよね。お休みなのに結局律ちゃんの机に集まっているのがいい証拠。例えは悪いけれ
どまるでお通夜みたい。こんな時私も律ちゃんみたいにみんなを盛り上げられたらいいのだけど……
だめ、今度何か一発芸でも考えておこうかしら。
 HRが終わると同じ部活の人達が楽しそうにおしゃべりしながらそれぞれの活動場所に駆けていく。
普段は私も律ちゃんと放課後のさざめく廊下を音楽室に向かう所だけど、今日は一人そそくさと荷物
を纏めて教室を後にする。
 澪ちゃんは学校に来てはいたけど、なんだか行き帰りに事故に合わないか心配になっちゃうくらい
に頼りない雰囲気で、とても練習できる風じゃなかった。
唯ちゃんは相変わらずさわ子先生の特訓でお休み。四人一緒が当たり前だった軽音部がいきなりバ
ラバラになってしまった。
 薄暗い昇降口を出て表に出ると、空はまだまだ明るくてこんな時間に帰ることが勿体なく思えてし
まう。夕方と違って駅へ通じる大通りにも人影は少ない。部活が終わって帰る時間には私達の他にも
沢山の女の子が歩いていて、平凡な町並みが溢れるばかりの女の子で彩られる様子が私はたまらなく
好きだった。
 ひっきりなしのおしゃべりに合わせて、スカートから覗く華奢な足が踊るように駆けていく。ずっ
と昔、桜ヶ丘が出来た頃からこの風景は少しずつその登場人物を変えながら続いて、さわ子先生も昔
はその一人だったのだろうし、そして今は私に役が巡ってきている。
 そうしたことを思う時、私は永遠というものを少し信じられるような気がするのだった。
 けれど明るすぎる陽差しの中では夢を見ることもできない。身も蓋もないねずみ色をした町を私は
一人で歩く。
がらがらの電車を乗り継いで家に帰ってももやもやした気分は続いていた。出迎えてくれた斉藤も
私の機嫌が悪いのを察したのか、小さく一礼だけしてすぐに仕事に戻った。
 自分の部屋に入ると鞄を放りだしてベッドに倒れ込む。目を瞑ると昨日の澪ちゃんの言葉が耳鳴り
のように頭に響いた。
『ムギが私達のことも付き合ってるみたいに見てるんじゃないかって言った……そう言えば律も少し
は私のこと意識してくれるんじゃないかって』
『ムギにはわかんないよ!現実はムギが頭の中で考えてるみたいにうまくいったりしないんだ……!』
 仲の良い女の子同士ってとっても幸せそうで、可愛くて、だから私はそういう二人がずっと一緒に
いられたらいいなって思ってた。なのにその私のせいで幼馴染みの二人があんな風に仲違いしてしま
うなんて。

「私が子供だったのかな、ママ」

 ベッド脇の棚の上に置いてある写真立てには、ずっと小さい頃家族三人でとった写真が収まってい
る。黒髪のパパと金髪のママ。私は、顔は日本人寄りだけど、髪にはママの血が強く出た。日本人の
パパの所に遠い国からお嫁に来たママ。言葉や生活習慣、色んな壁を乗り越えて結ばれた二人。そん
な二人の間に生まれ育って、私は愛というものを都合良く考えすぎていたのかもしれない。



332 :Recycling3 :2009/06/21(日) 16:09:53 ID:2zGw2G+p
 私は小学生の頃、『赤毛のアン』で続きの巻にダイアナが殆ど出てこないって知ってすごくショッ
クだった。腹心の友だったはずの二人が疎遠になってしまう。それは当時の私にとって、まさに空か
ら太陽と月がいっぺんになくなってしまったのと同じようなことだったから。
 それから女の子同士でも、恋していれば、愛があればずっと一緒にいられるんじゃないかなんて、
飛躍した思いつきをしたのはいつのことだったろう。ただ気付いた時には私は、もう今の私になって
いて、両親の薦める共学の進学校を蹴って女子高の桜ヶ丘に入っていた。
 ここには親密な女の子達が一杯いて、さりげに腕を組んだり、カーテンの影でひそひそ話に興じる
彼女達を見ているだけですごく幸せだった。でもずうっと物語の読者のままでいた私は、恋する人の
胸の内にある激しさをわかっていなかったみたい。
 あの恥ずかしがり屋な澪ちゃんが自分からキスするなんて。今律ちゃんの唇が欲しいってそれだけ
で、この先どうなるかなんてその瞬間は何も考えられなかったんだろうな。
 律ちゃんの方はどうだったんだろう。ドアが勢いよく開いたのにびっくりした私は律ちゃんがどん
な顔をしていたのかよく見ていなかった。だからってわけじゃないけど、私はまだ律ちゃんが澪ちゃ
んの想いを受け入れることを期待している。
 律ちゃんにとって澪ちゃんはいるのが当たり前の、空気のようなものだから、今とは違う接し方が
急には思いつかなくて、それで逃げちゃったんじゃないかと思う。最後に澪ちゃんが望むような関係
が残るかはわからないけど、律ちゃんはそのうちに気持ちの整理を付けて帰ってくるって、信じたい。
 でも、とそこまで考えて私はため息をついた。そのうちじゃ困ることもあるのよね。四日後に迫っ
た学園祭、私達はステージでライブをしなければならない。まだボーカルを入れて合わせたこともな
いし、そもそも今のテンションでまともに演奏できるのかしら?最悪この間に律ちゃんが軽音部に来
てくれるかもわからない。
 さわ子先生と一緒に元気よく飛び出していった唯ちゃんの顔が目に浮かぶ。あんなに一生懸命練習
していたのに、自分の知らない所でライブができなくなるなんて可哀想すぎる。
 唯ちゃんだけじゃない、私だってライブを待ち遠しく思っていた。一人で刃物を研ぐように練習し
ていたピアノとは違う、四人でおしゃべりしながら欲しいものを全部入れて作った曲をみんなに聴い
てもらいたかった。それで私達の演奏が少しでも学園祭の雰囲気を盛り上げることができたならって
思っていたのに。
 私はベッドから起きあがると鞄から携帯を取り出した。律ちゃんにメールでも送ってみようか、で
も何て書けばいいのかな。
 なかなかしっくり来る文章が思いつかなくて結局、明日は来られる?とだけ書いて送信した。緊張
で喉の奥に嫌な乾きが張り付いた頃、返事が帰ってきた。
『澪は来てた?』
 私はすぐに返信した。
『来てたけど元気なかった』
 もどかしかった。こんなメールじゃ何もわからないし、何も伝わらない。15分も携帯を眺めてい
ただろうか、決心して電話を掛けた。けれど聞こえてきたのは機械的な女性の声色だけで、私は携帯
を放りだすと枕に顔を埋めた。


 今日も律ちゃんは欠席だった。メールの返事もあれきり来なくて、何も変わらないまま時間だけが
過ぎてゆく。
 放課後、私は不安な気持ちを抑えて音楽室に向かった。階段を登ると誰もいないと思っていた音楽
室に人の気配があって、慌てて扉を開けるろ澪ちゃんが一人でベースのチューニングをしていた。

「澪ちゃん、来てくれたんだ」
「うん。こないだはごめん、私八つ当たりして酷いこと言っちゃったな」
「ううん、気にしないで。私は澪ちゃんが帰ってきてくれただけで嬉しい」



333 :Recycling3 :2009/06/21(日) 16:11:58 ID:2zGw2G+p
じっと澪ちゃんの顔を見た。少しやつれた頬や重たげな瞼に、どこか退廃的な色気を感じてドキっ
とする。
 そんな私の視線に気付いて澪ちゃんが口を開いた。

「私は言いたい事はもう言っちゃったし。勿論つらいんけど、律はもっとつらいだろうから……それ
にさ、良く泣く人のほうがかえってストレス溜まらないって言うだろ、……だから私は大丈夫。さあ
練習しよう、唯もそろそろ帰ってくる頃だよ」

 そう言って澪ちゃんはベースをアンプに繋いだ。
気丈に背筋を伸ばして立った澪ちゃんには途中から折れてしまいそうな危うさがあって、私は小さく
頷くとキーボードの前に立った。
 ワン、ツー、スリー、フォー。澪ちゃんが足を踏みならして拍子をとる。普段は律ちゃんがしてい
る仕事。
 曲はミスの一つもなく終わった。何度も練習していたし二人だけなら合わせるのは何も難しいこと
じゃない。

「呆気ないわね……」
「そうだな」

あまり演奏したような気にはなれなかった。いつも通りに振る舞おうとすればする程、余計に律ちゃ
んの不在が浮き彫りになる。

「やっぱり私がいないと物足りない?」
「律!?」
「律ちゃん!」

ガラっと音たてて開いた扉の先には律ちゃんが立っていて、驚いて固まった私達の間にスキップする
ような軽い足取りで寄ってきた。

「暗い顔してどうしたの、お二人さん?さては私がいなくて寂しかったとかぁ」
「馬鹿っ、寂しいに決まってるだろ!そんな冗談にならないこと言うなよ」
「怖っ、あんまり怒ってばかりいると顔に皺が寄るぞー、ほら笑って?」
「ちょっ、こらっ、髪を弄るなっ」

まとわりつく律ちゃんを澪ちゃんは腕づくで引き離した。律ちゃんはその間もへらへらと笑っていた。

「律ちゃん、今日お休みしてたよね?今来たの?」
「うん。そうそう!途中廊下で担任とはち合わせそうになってさ、咄嗟に近くの教室に飛び込んだん
だ。いやー危なかった」
「うちは私立なんだからな、仮病で欠席なんてバレたら」
「わかってるって。だから見つからないように慎重に来たってば。さあ練習しようぜ、学園祭までも
う三日だもんな」

 ドラムの前に腰を下ろした律ちゃんを挟んで、澪ちゃんと私は顔を見合わせた。
澪ちゃんの表情には困惑と、明らかな不安が浮かんでいる。



334 :Recycling3 :2009/06/21(日) 16:13:39 ID:2zGw2G+p

「ワン、ツー、スリー、フォー!」

 スティックが打ち鳴らされ曲が始まった。リズムがいつもより早い。普段から律ちゃんのドラムは
走りがちだけど、今日のはどこか荒くて愛嬌がない。

「ちょっと律、おいっ、一旦ストップ!」

澪ちゃんがたまらず演奏を止めた。

「あ~ちょっち早かったかな」
「ちょっとじゃない、分かってるならもうちょっと丁寧にやってくれよ」

 仕切り直してもう1回。けれどやっぱり合わない。合わせようとしても次の瞬間にはまたリズムが狂う。

「律、やめろって、律っ」
「なんだよー、気持ちよく打ってたのに」
「嘘」

 律ちゃんの顔から笑顔がぽろぽろと剥がれ落ちる。緊張をはらんだ空気が今にもはじけ飛びそう。

「あんな無茶苦茶打ってて気持ちいいなんてあるわけない……ねえ、律はやっぱりこの間のことが気
になってるんだろ?本当は、私に会うのもつらいんだろ」
「えっと、そりゃびっくりしたよ。澪がああいうイタズラするなんてな」
「イタズラなんかじゃないよ。私は律が好き」
「私も澪のこと好きだぜ」
「ふざけないで!……私が悪かったよ、だからお願い、もうはっきり言ってよ……」
「ふざけてない!私は澪のこと一番の友達だと思ってたよ!澪のことなら何でも知ってるし、私以上
に仲良いやつなんていないって。なのに、私は澪が私のこと好きなんて、全然気付かなかった……ね
え澪、私と澪のこれまでって何だったんだ?私にずっと優しかったのも、みんな私が欲しかったから?」
「好きな人に優しくしたくなるのは当たり前だろ……それが、いけないことなのか……?」
「考えちゃったんだ、澪はひょっとして私に合わせてずっと無理してきたんじゃないかって……軽音
部だって本当はやりたくなかったんじゃないかとか」
「私はみんなと音楽がやるのが楽しいからここにいるの!それとこれとは関係ない」
「じゃあ高校は?澪はもっと偏差値高い所だって受かってたよな」

 肩から下げているベースをお守りのように強く抱きしめる澪ちゃん。私はそれを見て思わず叫んでいた。

「律ちゃんのばかっ!」

 律ちゃんの驚きでまん丸になった瞳が私の方に向いた。

「律ちゃんだって一緒にいたかったくせに、なんでそんな言い方するの?全部澪ちゃんのせいにして、
律ちゃんは甘えてるよ」
「そうだよ……だから怖いんだよ。なんだか澪が急に別人になっちゃった気がして、どうしたらいい
かわかんないんだ」

 律ちゃんは下瞼で今にもこぼれ落ちそうになっていた涙を拭った。小刻みに震える小さな背中は迷
子の子供のように見える。
 澪ちゃんがその背中に手を伸ばしかけて。

「りつ」

 ぺちっ、と乾いた音がして。
 澪ちゃんと律ちゃんの手がぶつかった所から発したそれは、津波のように私達を飲み込んでいった。


335 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/06/21(日) 16:16:08 ID:2zGw2G+p
以上です。
なるべく全キャラ書きたいなーとか考えてこんな事になっちゃいました。
ちゃんと律澪して終わるつもりなので、よろしければお付き合い下さい。



339 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/06/21(日) 16:55:48 ID:tdDXpz72
>>335
GJ!だけどそこで切るとかひどすぎるw
続き待ってます

流れを変えてくれてありがとう


340 :名無しさん@ローカルルール変更議論中:2009/06/21(日) 17:02:36 ID:dVUYAdB0
いやいや、全然OK。流れなんか気にしてたら誰も書かなくなるよ。
律澪好きの自分的にはよっしゃ!って感じ。
色々と言われてるけどここは百合スレなんだから。



788 :名無しさん@秘密の花園:2009/07/06(月) 02:00:13 ID:T/L15rMr
ここでSS投下します。前スレから続きのRecyclingの4です。
唯視点、律澪、ちょっと唯和です。多分7レスお借りします


789 :Recycling4:2009/07/06(月) 02:01:48 ID:T/L15rMr
 今日十何個目かになるのど飴を口に放り込む。昨日の夜から喉がちょっとおかしな感じ
だったけど、朝起きてみると私の声はすっかりしゃがれていた。せっかくちゃんと演奏し
ながら歌えるようになったのに、どうしてこうなっちゃうかなぁ。

「もう、練習熱心なのはいいけど、ちゃんと休ませなきゃ駄目じゃないの」

さわ子先生は呆れた顔で言った。

「うぅ、ごめんなさい、なんかついテンション上がっちゃって……」
「私に謝ってもしょうがないでしょ。まあ澪ちゃんにでもお願いするのね」

そうなんだけど、でも澪ちゃんがボーカルって魚を陸に上げるくらい大変なことのような。
何て言ってお願いすればいいんだろう?

「しょうがないわね。ほら、私も一緒に謝ってあげるからさ。勢い良くいくわよ」
「せんせぇ……」

実はワイルド(オカルト?)な所もあった先生だけど、やっぱり根は優しいんだよね。
私は扉の前に立つとギー太を構えた。せめてギターだけでも上達した所を見せなくちゃ。

「みんな!またせたわね!さあ唯ちゃん見せてあげなさい……って」

颯爽と登場したつもりだったのに、何、この雰囲気?なんか、こっち向いてるみんなの目
がうるうるしてるよ?

「あのー……みんなどうしたの?」
「唯ちゃん、その声どうしちゃったの!?」

私の声を聞いて、みんなはようやくこっちの世界に戻ってきたみたいだった。すごく気
まずいけど、それでもとりあえずは安心する。

「えっとごめんね……ちょっと練習しすぎちゃって、声枯れちゃったの。あ、あの、それ
でね、みんなの方はどうしたのかなー、なんて?」

三人共また暗い顔して下を向いちゃった。何だろう、これ私のせいじゃないよね。また
申請とか忘れててステージ借りられなくなったとか?でもそれだったら和ちゃんが何とか
してくれるだろうし。じゃあケンカとか?でもみんながケンカする理由って何かな、全然
思いつかない。
「そ、その音楽性の違いというか、ねえ澪ちゃん?」
「おんがくせい?」
「ああもう、馬鹿なこと言ってないでさっさと白状しなさい、まどろっこしい」

先生がキレた。ムギちゃんと澪ちゃんがびくっとして後ずさる。

「私が練習マジメにやってなかったから、二人に怒られたって、それだけだよ」




790 :Recycling4:2009/07/06(月) 02:03:15 ID:T/L15rMr
後ろに座っていた律ちゃんがぼそっと呟いて、その頑なな声に私はふと律ちゃんがこの
落ち着かない空気の中心だということがわかってしまった。

「四人とはいえ律ちゃんが部長なんだから、しっかりしなきゃダメじゃないの」

先生が律ちゃんを責めた。けどあんまり怒ってる感じはしなくて、この場をとりあえず
収めようと適当な着地点を探しているように見えた。律ちゃんもごめんごめんって笑いな
がら頭を下げて、みんなもそれで少しほっとした顔をしている。
なんだか私だけ除け者になったみたいで気分は良くないけど……そんなに深刻な話なの
かな。

「……まあいいわ、それでボーカルはどうするの?確か申請って今日までだったわよね」

そうだ、色々気になることはあるけどまずは澪ちゃんに

「私、ボーカルやる」

お願いしなきゃって考えてる内に、澪ちゃんが自分から手を上げた。この間はすっごく
恥ずかしがってたのにどうして?

「澪、そんな安請け合いして大丈夫なのか?」
「……できるもん、それに作詞は私なんだし一番適任でしょ」

 澪ちゃんにそう宣言されると反論できなかった。実際澪ちゃんしかいないんだから、す
んなり決まって安心するべきなのかもしれないけど、やっぱり違和感がある。

「ボーカルが決まったなら練習始めるわよ、学園祭の舞台で半端な演奏したら許さないか
らね」

私が澪ちゃんの隣に立つと、律ちゃんのスティックの音に急き立てるかのように演奏が始
まった。鳴り響く不協和音の渦の中、私はギー太を支える腕にぎゅっと力を込めた。

 その後の練習は、私が言うのもなんだけど、もの凄いぐだぐだに終わった。弾きながら
歌うことに慣れていない澪ちゃんはもちろん、律ちゃんや紬ちゃんまで単純なミスを連発
するし、さわ子先生も声を出しこそしなかったけど最後のほうにはすっかり目が据わって
いた。

「ごめん、私ちょっと寄る所があるから」

四人揃って校門を出た所で澪ちゃんは一人いつもとは逆方向に歩いていった。長い髪を
たなびかせて去っていく澪ちゃんの後ろ姿は、私が最初に思い描いていた格好良くてクー
ルな大人の女性のイメージそのままだった。
 私がその背中をぼんやりと見送っている間にも律ちゃんは歩き出していて、私とムギち
ゃんは少し距離をあけてその後ろを付いていった。向こうの山の端からは沈み掛けのお日
様の投げる真っ赤な光が差し込んでいて、律ちゃんの影が私の足下まで長く長く伸びている。




791 :Recycling4:2009/07/06(月) 02:04:16 ID:T/L15rMr
「ねえムギちゃん、律ちゃんと澪ちゃんどうしちゃったの?」
「え、あ、その……」
こっそり耳打ちするとムギちゃんはすごく困ったような顔をして、私と先を行く律ちゃ
んを交互に見やった。

「いいよ、唯。教えてあげる」

律ちゃんが立ち止まってこっちを振り向いた。逆光のせいでその表情は良くわからない。

「いいの?律ちゃん?」
「ん、唯だけ知らないってのも何か嫌だし……あのな、唯、落ち着いて聞いてくれよ」
「う、うん」

私はとことこと律ちゃんに近寄った。一体どんな悪い事があったの?想像するだけでお
腹がきゅるきゅると痛む。

「澪に告白されたんだ」
「告白って何を?」
「告白ったらあれに決まってるだろー」
「あれって何?」
「だ、だから……好きだって言われたんだよ、澪に」
「好きってもしかして友達としてじゃないやつ?」
「あ~、もうそうだよ!恥ずかしいから何度も言わせるなあ!」

律ちゃんに両方のほっぺたをつねられた。ちょっと痛いって律ちゃん。

「でもすごいね!そっかあ、澪ちゃんがねー。いやあ私二人が喧嘩したのかと思って心配
してたんだよー」
「いや、喧嘩より大事だろ」
「う、まあそうかもしれないけどさ、で、律ちゃんは澪ちゃんと付き合ったりするの?」
「付き合うって私ら女同士だよ?」
「私は愛があるなら全然問題ないと思うよ、律ちゃん!」

私は律ちゃんの肩に手を置いて力説した。女の子同士だからって何も悪いことしてるわ
けじゃないもんね。律ちゃんがそこでためらっているなら、一番近くにいる私が大丈夫だ
よって背中を押してあげなくちゃ!

「あ、あのね、唯ちゃんは多分勘違いしてると思う……」

ムギちゃんの言葉に私は首をひねった。あれー、どっかおかしな所あったかな?

「あのな唯、私は澪と付き合うつもりはないんだ」
「えええええーっ!!」
「んな驚くことじゃないだろ」
「私律ちゃんが世間体とか気にして悩んでるんだとばっかり」
「……相変わらず唯は天然だなー」



792 :Recycling4:2009/07/06(月) 02:05:42 ID:T/L15rMr
天然と言われてふてくされた私を見て、律ちゃんがくすっと笑った。そんなおしとやか
な笑い方律ちゃんのキャラじゃないよ。でも、世間体じゃなかったら何が問題なんだろう?

「変なのは律ちゃんのほうだよー、せっかく両想いなのにもったいないよ?」
「ほんとに人の話聞いてたんかい!そもそも私は澪のこと友達としか思ってないっての」
「そうだったの?律ちゃんって澪ちゃんの表情とかいっつも気にしてるし、よっぽど好き
なんだなーって」

律ちゃんの顔が夕焼けの中でもはっきりと分かるくらいに赤くなった。ほらー、やっぱ
り律ちゃんにも思い当たる所があるんじゃん。

「んな事ない!」
「あるって!」

そう頭ごなしに否定されると私も段々とムキになってきて、枯れてハスキーになった喉か
ら精一杯の声を絞り出して反論した。通りすがりの人達の視線が痛かったけど、こうなった
ら私も引けない。
そんな押し問答が5分くらい続いて、律ちゃんは「帰るっ」と言ってぷいと顔を背けると、
いつもの別れ道より少し前の脇道にすっと入っていった。律ちゃんの意地っ張り!
その後私達は駅前のコンビニに入って、私はメロンパン、ムギちゃんはペットボトルのお
水を買った。部室で何も食べていないからお腹が空いちゃったし、色々と話し足りない気分
でもあって、店を出るとすぐ脇の道の車止めに二人で寄り掛かって座った。

「ねえムギちゃん、律ちゃんってどうして素直じゃないんだろうね」
「やっぱり幼馴染みだし、関係が急に変わっちゃうのが怖いんじゃないかしら。その、恋人
になると色々勝手の違うこともあるだろうし」
「そうなのかなあ。私が幼馴染みに告白されたりしたらきっと嬉しくてそれどころじゃなく
ちゃうよ。なんかマンガみたいで素敵じゃない?」
「確かにロマンチックだけど……例えば真鍋さんに告白されたら唯ちゃんは冷静でいられる?」

ちょっと想像してみた。シチュエーションはどうしようか、幼馴染みだしうんと日常的な
ほうがそれっぽい?私の部屋で勉強を教えてもらってる時がいいかな。
問題に集中してる私の手に、そっと和ちゃんの手が重ねられる。私が和ちゃんの方を向く
と、和ちゃんは熱に浮かされた顔で、最初はうわごとのように、でも次にははっきりと『私、
唯が好きなの。友達のままなんて嫌』って言うの。重ねられた手が動いて、私の指を絡め取
る。戸惑う私に覆い被さるように和ちゃんが身を乗り出してきて、顔がもうちょっとでキス
できそうな位の所まで近づく。少年のようにすっきりと整った顔立ちと、物欲しげに小さく
開いた赤い唇とが倒錯的な魅力をかもしだしている。気が付くと私は床に横たわっていて、
もう逃げる場所はなくなっていた。
『……和ちゃんだったらしてもいいよ』
その声は荒く熱い吐息に霞んでいて、キスだけじゃないその先のなまめかしい匂いまで漂
ってくるようだった。そして和ちゃんは真っ正面から私を見つめて。
『愛してる、唯』




793 :Recycling4:2009/07/06(月) 02:07:21 ID:T/L15rMr
「うひゃああああああ!!」
「ゆ、唯ちゃん!?ど、どうしたの!鼻血出てるわよ!」
「ム、ムギちゃん、これやばいよ!刺激的すぎるよ!どうしよう、私これから和ちゃんにどんな顔して会えばいいのかな!?」
「落ち着いて唯ちゃん、それは妄想よ!」

ムギちゃんのくれたアザラシのポケットティッシュが空になる頃になって、ようやく私の
興奮は収まった。恐る恐る胸に手を当てる。私の心臓、飛び出したりしてないよね。
「澪ちゃんは大丈夫なのかしら、あんなにボーカル嫌がってたのに。無理してるんじゃなけ
ればいいんだけど……」

そう言うムギちゃんの声にも疲れがにじみ出ていた。元々の肌の白さもあって、高原のサナ
トリウムで療養中のお嬢様といった雰囲気だ。

「やっぱりあれって律ちゃんへの当てつけなのかな?」
「考えたくないけど、多分そうよね。はぁ、学園祭どうなっちゃうのかしら」

残った水をまるでお酒のように一気に飲んでしまうと、次に来た電車にムギちゃんは乗り
込んでいった。踏切が上がるのを待つ私はすれ違う瞬間、窓際に窮屈そうに押し込められた
ムギちゃんに向けていつものように大きく手を振った。
線路を越えたすぐ先には高野川が流れていて、北の山に通じるそれは夜になるとまるで水
と一緒に暗闇が山から町中に降りてきているようにも見える。鬼門だなんて信じているわけ
じゃないけど、どっかりと黒い壁のように座り込んでいる山はやっぱり少し不気味な感じが
して、小さい頃はそっちへ顔を向けるのを避けていたような覚えがある。
けれど今、私は橋の手すりに肘をついてその山の方を眺めている。水気をたっぷりと含ん
だ風が気持ちいい。目をつぶって、規則的なようにも気まぐれなようにも聞こえる川の流れ
に耳を澄ませていると、このまま何もかも忘れて眠りこけてしまいたくなる。アンニュイっ
てこういう気分のことを言うのかもしれない。

「唯?そんなところに突っ立ってどうしたの?」
「わっ!!和ちゃん!」

いつの間にか和ちゃんが私の真横に立っていた。意識が暗がりから引き上げられたのと一
緒にさっきのエッチな妄想を思い出してしまって頬が熱くなる。これじゃまるで立場が逆だ。

「さわ子先生から聞いてたけど、ほんとに酷い声ね」
「あ、うん……ちょっとはりきりすぎちゃって。和ちゃんこそ随分遅いけどどうしたの?」
「私は生徒会の仕事。唯、こんな所でぼーっとしてるともっと悪くするわよ。気を落とすの
も分かるけどさ、ライブの機会はまだ何回もあるわよ」

和ちゃんは私がライブで歌えなくなったから落ち込んでるんだと思ってるみたいだった。
それは間違いではないんだけど、その上に更に色々なものが上塗りされたせいで私にも何が
憂鬱の原因なのかわからなくなってしまっている。

「にしても唯がこんなに一生懸命練習するようになるなんて……正直言うとね、途中でやっ
ぱやめたーって言い出すんじゃないかって思ってた」
「もう、和ちゃんってば。私だってもう高校生だよ、やる時はやるんだから」


794 :Recycling4:2009/07/06(月) 02:10:40 ID:T/L15rMr
「ごめんごめん。でも本当、唯は最近変わったよね。すごく、生き生きしてる。軽音部の人
達の影響なのかな」

 私は軽音部、和ちゃんは生徒会の活動があって、私達が二人一緒にいる時間は少なくなっ
ていた。それぞれに知らない友達も出来て、ぴったり重ねっていた私達の世界は段々とずれ
てきている。でもそれは高校生にもなれば当たり前のことで、気にしたこともなかったはず
なのに。なんでだろう、和ちゃんの口からそれを聞くのはすごく寂しい。

「えへへ、世話のしがいがなくなって寂しいでしょぉ?」
いやらしい訊き方、それにばかみたい。和ちゃんはしっかり者だもん、私なんかがいなく
たって大丈夫に決まってるじゃん。

「何言ってんだか、むしろ軽音部の分面倒が増えてるじゃない」
「あはは、それもそうだねー」
「……でも、私の知らない所で楽しそうにしてる唯を見るのは、幼馴染みとしてはちょっと、
悔しいかも」

外国人の観光客に道を聞かれた時のように一瞬頭が真っ白になって、やきもちを焼かれて
いると私が理解したのは、和ちゃんが照れ隠しの咳払いをしてからだった。

「軽音部のみんなといるのはすっごく楽しいけど、やっぱり和ちゃんは特別だよ」
「ご、ごめん唯、私そんな事言わせたかったんじゃ」

 和ちゃんが喋るのを遮ってその手を握った。いつの間にか少し湿っていた私の手はしっと
りと和ちゃんの手に張り付いて、その感触にさっきの妄想がまた少し鮮やかになる。

「やっぱり私変わってないや、和ちゃんの手握ってると凄く安心する……今日ね、この声以
外にも色々あってちょっと心細いんだ」

 和ちゃんの前で演技するのはこれが初めてだった。本当は安心してなんかない。ただなん
となく和ちゃんと手を繋ぎたくなったの、なんとなく。

「ったくしょうがないんだから……ほら繋いでてあげるから、もう帰るわよ。あんまり遅く
なると憂ちゃんが心配するでしょ」

 呆れたような口ぶりだったけれど、和ちゃんはちょっと嬉しそうだった。そのはにかんだ
笑顔が可愛くて、私はまた少しだけ装ってしまう。

「ありがとー、和ちゃん大好き!」

 ばかみたいに熱い体温をごまかすように、大きく手を振って歩き出す。
そうして橋を渡りきった時、私はふとやっぱり山を見つめるのはよそうと思った。



795 :Recycling4:2009/07/06(月) 02:13:43 ID:T/L15rMr
以上です。なんか段落消えちゃっててかえって読みにくくなってすいません。
長々と書いてしまいましたが次に律がもう1回きて終わりです。


796 :名無しさん@秘密の花園:2009/07/06(月) 02:16:40 ID:p6U1akzD
>>795
ふおおお続き待ってましたー!!
いつにも増して描写が丁寧でGJ!!
続きが気になる…


797 :名無しさん@秘密の花園:2009/07/06(月) 02:31:48 ID:gNFaubPe
唯和分補給完了致しました!乙であります!!


798 :名無しさん@秘密の花園:2009/07/06(月) 02:39:58 ID:k5qp6QtZ
まとめて読んだから今夜はいい夢が見られそうですわ。み~んなGJ!


799 :名無しさん@秘密の花園:2009/07/06(月) 02:41:09 ID:sam901+z
>>795
情景描写が上手すぎる
あなたの表現力が欲しいですw
とにかくGJ



252 : ◆Y8Cyh2./EM:2009/08/25(火) 22:01:42 ID:Vf/XwQMA
Recyclingの続きを投下します。
ぐたぐたに長くなってしまいましたが、読んでいただければ幸いです。


253 : ◆Y8Cyh2./EM:2009/08/25(火) 22:04:36 ID:Vf/XwQMA
私はみんなと別れて小学生の頃通学路にしていた住宅地の中の狭い通りを、肩をいから
せ歩いていた。
 唯はばかだ。初対面の時からどっか抜けてるやつだったけど、やっぱり正真正銘のばか
だった。私が澪のこと好きだなんて、そんなのあるわけない。だって女同士だし、勿体な
いとかそういう問題じゃないだろ。
 曲がったガードレール、道に覆い被さるように育った夏蜜柑の木、公園のさび付いたブ
ランコ、何を見てもまるでかさぶたを剥がしたように思い出がじくじくと浸みだしてくる。
 みんなの前で作文を読むのが嫌だって泣いていた澪、あの時引いた手はまだ私と同じく
らいだったのに今では手も背も胸も、どこをとっても敵わない。あげくに堂々と女に告白
したりするんだから、ほんとまいっちゃうな。
「……ばか、ばか、ばか……」
 たまらなくいらいらして、無意識に悪態が口をついて出る。職質ものの怪しさだけど、
外面を取り繕ってるだけの余裕がない。
 けど、私は一体誰に向かって文句を言ってるんだろう?いきなりキスしてきた澪?好き
勝手言ってくれた唯?私達におかしな発想を吹き込んだムギ?
……本当はわかってる。澪を誘ったのは私だ。ムギを驚かせてやろうなんてのは口実で、
赤くなって、恥ずかしがって、うろたえて、私の腕の中で窮屈そうに身もだえする澪が見
たかった。嫌って口では言いながら、結局は澪が私を受け入れてくれることを確かめたか
った。
私は何度もこんなことを繰り返してきた。文芸部に入りたがってた澪を、無理矢理軽音
部に連れてきたのもそう。入部届けを破いた時は、内心ちょっとやり過ぎたかなって思っ
たけど、それでも澪は私に付いてきてくれた。
……全然爽やかじゃない。やらしーな。
 何気ない仕草の裏に罠を仕掛けて気持ちを測って。こんな友情ってあり?
 家に着くと、家族と顔を合わせたくなくて急いで階段を駆け上がった。鍵を閉め、その
ままドアに身体を預けて床にへたりこむ。部屋に染みついた自分の匂いを胸一杯に吸い込
んでようやく一心地つくことができた。
 ふと棚の上に座り込んだウサギのぬいぐるみと目が合う。澪の“お気に入りのウサちゃ
ん”ぬいぐるみなんてもういらないんだけど、澪が遊びに来るといっつも抱いているもの
だから、つい捨てそびれてしまった。クールぶってるくせになんでいつまでたってもこう
ファンシーなものが好きなんだろうね。
 鞄の中に手を突っ込めば、そこにある携帯は澪とお揃いの機種。この部屋で、貰ってき
た沢山のパンフレットを床に広げて、二人であれこれ言いながら選んだ。お揃いにしたか
ったわけじゃないけど、たまたま値段とかスペックで他にいいのがなかったから。
「ラブ定額とかあったらいいのにねー」
「お揃いってだけであれなのに、そんなもんいるか」
「そう?寂しがりやの澪ちゃんはしょっちゅう電話掛けてきそうだけどな」
 実際にはもっぱら私が掛けることの方が多かった。前に澪の携帯をこっそり覗いたら、
メールの受信BOXも着信履歴も半分以上私からのもので、なんだか澪を独り占めしてる
気分だった。まあ私の方も一番多いのはやっぱり澪なんだけど。
 何を見ても、澪の顔がちらつく。自分の部屋にいてさえ、私は一人になれない。べった
りしすぎだよ、私達。


254 : ◆Y8Cyh2./EM:2009/08/25(火) 22:07:24 ID:Vf/XwQMA

それから数日、さわ子先生の指導のもとで私達は練習を続けていたけれど、私と澪の間
にはほとんど会話らしい会話はなかった。澪は心配されていた弾き語りもそつなくこなし
た。不思議なことに、私達の演奏は今までにないくらいぴったりと合っていた。せめて演
奏中だけは、楽しい軽音部でいたいっていう気持ちが働いたのかな。言葉を交わしたら、
せっかくの一体感が崩れてしまうからみんな熱に浮かされたように練習した。


 当日の朝、私はいつもより二時間近く早くに家を出た。鞄にはノートや教科書の代わり
に、ハサミや、糊、ガムテープやらの工作道具が詰め込まれている。お化け屋敷の内装は
ほとんど完成していて実際やることはないんだけど、普通に出て澪と鉢合わせしまうのは
避けたかった。
 開けっぱなしのジャケットと身体の間に乾いた風が入り込む。見上げた空は高く澄み渡
った秋空で、肌が透けて見えるようなブラウス一枚で澪と抱き合ったあの日が、遠い過去
だったように錯覚してしまいそうになる。
 学校には思っていたよりも人の気配があった。廊下を歩いていると幾つかの教室から演
劇の稽古らしき声が聞こえてくる。通りすがりにちらっと目をやると、高めに結ったポニ
ーテールに袴姿が凛々しい女の子が安っぽく光る模造刀を構えていた。本番ではさぞかし
黄色い歓声が飛ぶだろうな。
 演劇の主役、ミスコンの優勝者、ジャズ研のサックスプレーヤー、学園祭では毎年アイ
ドルが生まれる。けれどそういうのに夢中になっている子達のほとんどは、本気で恋して
いるわけじゃない。男のいない環境だから、ちょっと格好良い先輩とか先生がその代わり
として選ばれるんであって、大抵の人は女同士の恋愛なんて想像もしないで卒業していく。
私はその数少ない例外になってしまった。
 私の教室の前に人影はなかった。とりあえず中に荷物を置かせてもらおうとドアのくぼ
みに手をかけると、いきなりするっと滑るように開いて、目の前に真っ白い着物を着た女
が表れた。
「うわあぁっ!」
「あら、律ちゃん。随分早いのね」
「……ムギか、あんまびっくりさせないでくれよ、心臓止まるかと思った、しかし随分早
いんだな、他はまだ誰も来てないだろ?」
「うん、私一人。明け方に起きたらなんだか寝付けなくなっちゃって」
 ムギが寝付けなかったのは多分私と澪のいざこざが原因なんだろう。二人の問題にみん
なを巻き込んでしまった負い目を感じる。
 ムギはメイク道具と、それにお岩さんのマスク手にトイレに向かった。特にやることも
ないから後に付いていく。マスクは一緒にドンキに買いに行ったものだ。変な所で凝り性
のムギはその完成度に満足しなかったようで、演劇用品の専門店まで行って色々と買い込
んできた。
 ムギは鏡の前に立って下地のファンデーションを塗り始めた。ムギのにきび跡一つない
透き通るような肌が、茶とも緑ともつかないくすんだ色に覆われていく。終わったらすぐ
に落とすんだけど、一瞬でもあの綺麗な肌を汚すのはもったいなぁと思わずにいられない。
「ムギは肌超きれいだよなー、どうやったらそんな風になれるんだ?」
「特別な事は何もしてないけど……そうね、夜は早く寝るようにしてるかしら」
「それできないんだよな、ラジオ聞いたり雑誌読んだり……」
 澪と長電話したり。


255 : ◆Y8Cyh2./EM:2009/08/25(火) 22:08:49 ID:Vf/XwQMA
「……色々してるとすぐ二時くらいになる」
「2時はちょっと身体に悪いじゃないかしら、成長ホルモンが出るのは十時から二時の間
なんだって」
「そうなの?ま、いいけどね。そんな酷いわけじゃないし、それにムギみたいには絶対な
れないだろうから」
「私は律ちゃんの身体が羨ましいけどな、細くてすっきりしてて。私、すぐ太っちゃうか
ら」
 すっかり土気色になった顔のムギが言った。身体って、言い方がエロいよムギ。
「気にしすぎだって。私はあんまり痩せない方がいいと思うけどな、ムギはちょっと柔ら
かそうな所が可愛いんじゃん」
 太ってない、とか言っても無駄だって事は澪で良くわかってる。私から言わせて貰えば
体重の悩みなんて身長に比べれば軽いもんだと思うけど、まあどこまでいっても平行線だ
ろうな。
「律ちゃん、そういう事は……ううん、なんでもない」
「何だよ、気になるじゃんかよ」
 鏡越しで、しかもマスクとファンデーションに隠されたムギの表情は良く分からなかっ
た。 
 下地作りが終わり、今度はその上に血糊を重ねていく。顔の左半分、髪の生え際から着
物の襟元まで真っ赤に染めていく。ゲル状のそれはまるでたった今傷口から浸みだしたよ
うですごく気持ち悪い。とても元が二千円のパーティグッズとは思えない、凄まじい出来
映えだ。
 ……澪が見たら卒倒するだろうな。
「澪ちゃんに見せてあげたいわね」
 なんでだろう、マスクの下でムギがウィンクしていたような気がした。


 当日の私の担当は朝一の受付だった。
 お化け屋敷だけあってお客の中にはカップルも多い。中には彼氏の腕を引っ張ってやっ
てくる桜高の子もいて、へえこういうのと付き合ってるんだ、と妙な感慨を持って私は彼
女達の顔を眺めていた。受付として座っている間、人波の中から不意に澪がやってくるん
じゃないかとびくびくしていたけれど、終わってみれば何事もなかった。多分、一人で音
楽室にでも籠もっているんだろう。
 担当の時間を終えて私とムギが音楽室に向かうと。扉に張り付くようにして唯が立って
いた。
「何してんだ?」
「澪ちゃんが一人で練習してるんだけど……ちょっと入りづらくって」
 ひょいっと中を覗きこむと澪が一人で歌の練習をしていた。その横顔は真剣そのもので
大きく開いた口と睨み付けるように吊り上がった眉は、歌っているというより何かを訴え
かけているようだ。脇の下がぞわぞわして冷や汗が出ているのがわかる。それでも覚悟を
決めてドアノブに力を込めた。
「あ、律」
「ん、おはよ」
 名前を呼ばれたのは三日ぶりだった。集中しているところに突然入ってこられたせいで
反射的に返事をしてしまったんだろう、すぐに目を逸らされた。


256 : ◆Y8Cyh2./EM:2009/08/25(火) 22:10:48 ID:Vf/XwQMA
「澪ちゃんずっと練習してたの?」
「うん……練習してないと落ち着かなくって」
「そんなんで、みんなの前で歌えるのか?」
 その割に澪はあまり緊張していないように見えた。それが面白くなくて、私はまたつい
口を挟んでしまう。
「私はできるよ。だから、ちゃんと見ててね、律」
「そんな急には変われるわけないじゃん」
「私は律に甘えてただけ。やろうと思えばできるよ」
「……わかったよ。もう、何も言わない」
 違う、こんな事を言いたいんじゃない。けど私の足は澪から逃げようとして勝手に動き
出し、ドラムの壁の向こうに私を運んでいってしまった。
 澪も唯も、ムギも私を見ている。まるでブレーキの壊れた自転車で坂道を転がり落ちて
いるようだ。止まることができないならいつか坂が終わってくれる事を願いながら駆け抜
けるしかない。仕方なしにスティックを構える。
 澪はまた上手になっていた。作詞者だからか、あのポエミーな歌詞も澪が歌うと意外と
自然に聞こえる。演奏も完璧だ。普段真面目にやれって言ってたくせに、澪も何だかんだ
手抜いてたんじゃないのかと勘ぐりたくなる。
 唯も唯で演奏というよりギターと格闘しているような必死な顔をしている。いつもと違
って好きなフレーズで先走ったり、運指が甘くて音がぶれたりすることもない。良いこと
づくめなはずなんだけど、唯が必死になっているとどうも調子が狂う。遅れたままにして
おいた時計を正しく直されてしまったみたいな。
「あなたたち、そろそろ時間だから、機材を運びはじめてね」
 黙々と練習していると真鍋さんがやって来た。ミニスカポリス?と突っ込みたくなるよ
うな制帽を被っている。生徒会のしるしか何かなんだろうか。
 音楽室と講堂は結構離れていてなかなかの重労働だ。だからこっちが階段でまごついて
る間に涼しい顔してまた機材を取りに戻っていくムギには驚いた。お嬢様育ちのはずなの
になんでそんな逞しいんだ。
 機材を運び終わった部室はやたらに広く見えた。チェックを終えると一人ソファに寝転
がって瞼を閉じる。澪の事で頭がぐるぐるして、ライブの前だっていうのに緊張すること
すらできやしない。
「あら。律ちゃん一人?みんなは?」
「講堂、多分もうすぐ戻ってくるけど……ってか先生、その服は何?」
 束の間の安らぎを壊したのはさわちゃんだった。腕にはふりふりの飾りが一杯ついた衣
装を提げている。まさかあれを着ろっていうのか?
「みんなの衣装に決まってるじゃない。あ、寸法はちゃんと合わせてあるから心配しなく
てもいいわよ」
「そんなんいつ計った!?ってかそんな恥ずかしい衣装着れないって」
「そう?唯ちゃんとかムギちゃんは喜んでくれると思うんだけどな」
「う、でもあの二人はともかく澪は絶対着ないよ」
「絶対、なんて律ちゃんに言い切れるの?」
 挑発的に笑うさわちゃんに私は何も言い返せなかった。悔しくて、思わずきつい視線を
向けてしまう。
「ごめんね、冗談よ。だからそんな怖い顔しないで」
「やめてよ、今はそんな余裕ないんだから」


257 : ◆Y8Cyh2./EM:2009/08/25(火) 22:11:44 ID:Vf/XwQMA
「こら、教師に向かってその口の効き方はないでしょ」
 さわちゃんは私の頭にぽんと手を乗せた。子供扱いされてるみたいでむかつくけど、頭
に感じる手の重さは心地よかった。
「……先生にはわかんないよ。こんなの普通じゃないし」
「何となくわかるわよ、私は女子校通い長いからね。それにバンドやってる時は、そりゃ
もう女の子にモテたんだから。こんなのね、男とか女とか関係ないの。最後は自分がどう
したいかなのよ。相手の事ばっかり考えてたら気が詰まっちゃうわ」
「私がしたいこと?」
 視線を下げると、重なり合った衣装の中に埴輪のような得体の知れない仮面があった。
少し色褪せたそれは多分、先生が好きだった男のためと信じてへヴィメタに走ってた頃の
衣装だろう。あなたの色に染まります、だなんてさわちゃんは乙女だったんだなと思う。
結果的には大失敗だったとしても。
「お、律ちゃんこれに興味あるんだ。着てみる?」
「いえ、結構です」
 じゃあ私は、って、乙女なんて柄じゃないよな。

 
 何だろうね、私がしたいことって。澪の歩く度にふわふわと揺れるスカートを目で追い
ながら、私はずっと考えていた。例えば、例えばだけど、あの中を見たりしたい?……そ
れはないか、体育の着替えでちょくちょく見てるしな。あ、でもスカートめくられて慌て
て抑える澪は絶対萌える。
「田井中さん、もう開演だけど……大丈夫なの?」
 真鍋さんが心配するのも最もだ。澪はマイクの前で棒立ちになっているし、唯とムギは
舞台袖から客席を覗いてはしゃいでいる。全くまとまりがない。 
「大丈夫だよ。練習は完璧だから」
「ならいいけど……この間唯の様子がちょっと変だったから、軽音部で何かあったんじゃ
ないかって」
 穏やかな声の裏に、わずかに責めるような響きがあった。唯の家で初めて会った時、唯
との思い出を語った真鍋さんのしっとりした声が耳に蘇る。ほんと、真鍋さんは唯が大好
きなんだな。わかるよ、その気持ち。
「ちょっと色々ね。だけど唯に恥かかせるような真似はしないよ」
「信じるからね、今の言葉忘れないでよ」
 真鍋さんはそれだけ言って、生徒会の上級生らしき人の所へ戻っていった。
「こりゃ責任重大だな」
 なあ澪、澄ましてるけどずっと私達の会話に聞き耳立ててだろ?これから喋ることは独
り言だから、振り返らなくていいよ。ただそのまま聞いていて。
「さっきはごめん……澪はちゃんと歌えるよ。あれだけできて恥ずかしいことなんてない。
だから……すごい勝手な言い分だけどさ、もし私への意地で歌う気になってるのなら、今
はそんなの忘れちゃえよ。せっかくの初ステージ、勿体ないよ」
 澪は振り返らなかった。襞が波のように折り重なった緞帳をじっと見つめている。
「次は、軽音楽部によるバンド演奏です」
 頭上のスピーカーから開幕を告げるアナウンスが流れて、唯と紬もあわただしく持ち場
についた。


258 : ◆Y8Cyh2./EM:2009/08/25(火) 22:12:52 ID:Vf/XwQMA
「よーしっ、みんな行くぞーっ!」
「「おーっ!」」
 ぐだぐたな事になってごめんとか、私が部長面してていいのかな、とか色々思うことは
あるけど。ここまで来たら後は気合い入れてやるしかない。
 照明がつき緞帳が上がっていく。ここからでは暗い客席の様子は良く見えないけど、沢
山の人の息遣いを感じる。
 ようやく心臓が強く打ち出し始めた。いける、これくらいがベストコンディションだ。
 唯と紬と目配せを交わす。
 澪、私精一杯やるから。澪が歌いやすいようにリズムも絶対崩さないから。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
 振り上げた腕が軽い。いいかもね、ノースリーブ。
 音楽室と違って講堂は広い。音が客席に吸い込まれていくみたい。もっと、もっと大き
く打たなくちゃ。
 唯のリフが入ってから、ベース、キーボードも加わる。イントロが終わる。

 君を見てるといつもハートどきどき

 聞こえる、私もどきどきだったけど、聞こえてるよ、澪。
 今まで私は澪をフォローしてるつもりだったけど、やっぱりお節介だったのかな。

 揺れる思いはマシュマロみたいにふーわふわ

 前から気になってたんだけど、澪の歌詞って自分がモデルだったりするのかな。澪なら
そういうそういう恥ずかしいこと平気でやりそう。でも、この間のキスはちょっと重かっ
た、マシュマロとは似てもにつかない。

 いつも頑張る、君の横顔、ずっと見てても気付かないよね
 
 これは私のほうだ。さっきから澪のことを見つめて不安になっている。もう澪は私に愛
想をつかしたんじゃないのか、これが終わったら澪はまた私の方を向いてくれるのか。澪
がいない毎日なんて想像がつかない。

 夢の中なら、二人の距離、縮められるのにな
 
 澪は私に何を求めてるのかな、少なくともキスはしたかったんだよな。エッチはどうだ
ろ。澪はむっつりだからその辺も考えてそうだけど、こういう事言ったらデリカシーがな
いって怒られそうだな。
 私は……多分できちゃうだろうな。拍子抜けするくらいにすんなり澪としてる所想像で
きる。罪悪感とか嫌悪感とかも湧いてこない。これは、私も澪が好きって事なのか?

 ねえ、神様お願い、二人だけの、ドリームタイム下さい

 違うかな、いや好きだけどさ。私にとって澪は好きだから一緒にいるとか、嫌いになっ
たら別れるとか、そういう存在じゃない。


259 : ◆Y8Cyh2./EM:2009/08/25(火) 22:14:26 ID:Vf/XwQMA
お気に入りのうさちゃん抱いて、今夜もおやすみ

 ふわふわ時間
 
 ふわふわ時間
 

 あれ、もう終わり?
 観客席から、割れんばかり、とは行かないけれど私を物思いから覚ますには充分な拍手
がわき起こった。
 頭は寝惚けていたけれど、身体の方はしっかり汗をかいていて、奥の方ではまだドラム
の振動が残っているみたいだった。唯と紬も、まるで今目覚めたかのような顔をしている。
 そして見事に歌いきった澪はというと、歓声に応えることもせず控えめに一礼して、脇
に引っ込もうとしていた。
「あ、澪」
 踏んづけてたるんだコードが、足を引っ掛けるのにちょうどいい輪っかになっている。
咄嗟に声をかけたけれど澪は止まらない。
 次の瞬間、澪は転んだ。まるで糸の切れた人形のように無防備な転び方だった。
「澪っ!」
 四つんばいになったまま立ち上がる気配のない澪の横に駆け寄る。顎を伝って床に汗が
だらだらと落ちている。私もかなり汗をかいていたけれど、それでも比べものにならない
量だ。全身が小刻みに揺れて何かの発作みたいだ。
「ああ、律……見てたよな。ほら、私、できただろ?もう一人でも、大丈夫」
「澪ができるのはわかったよ、でもこんな無理してどうすんだよ……ばか」
「無理じゃない……ただちょっと疲れただけ」
「手貸すからとりあえず立てよ、この体勢、パンツ見えてるって」
 さっきから客席がきゃーきゃーうるさい。しましまー、とか言われてるぞ。よりによっ
てこんな時になんて物履いてるんだ。
「……いい。律の手は借りない」
「はあっ!?パンツ見えてるんだぞ、ってかそれよりその汗、早く保健室行かないと」
「もう律の助けなんて必要ないもん」
 ばか、ばか、ばかっ!何でこう変な所で意地っぱりなんだ、丸見えなんだぞ今。
 客席でフラッシュが光った。一つ光ったのきっかけに、二つ、三つと続く。
その白い光が私の理性を焼き切った。
「澪はあたしんだっ!お前ら勝手に見るんじゃねー!」
 フラッシュが止んだ。
 ……あれ、ひょっとして今、私すごい事言ってなかった?
 ほとんど悲鳴みたいな歓声が講堂にこだました。のっぺりした塊だった客席が嵐の海の
ようにうごめいている。
「こんな所で何言ってんのよ、ばか律ー!」
 足元で本物の悲鳴が聞こえた。
「ええと、つい、ごめん。ああもう、逃げるぞ!唯、ムギ、こっち持って!」
 二人に腕を支えてもらって澪を背中におぶった。足をばたばたさせて逃れようとする澪
を必死で押さえつける。ますます燃料を投下しているような気もするけど仕方ない。


260 : ◆Y8Cyh2./EM:2009/08/25(火) 22:16:57 ID:Vf/XwQMA
「おろしてっ、私歩けるから、一人でも大丈夫だから!」
「澪はよくても、私がダメなんだ!」
 衝動にまかせて叫んだ。どうせ歓声にかき消されて他のやつらには聞こえやしない。例
え周りにどれだけの人がいたって、今私達は二人きりだ。恥ずかしいこと、全部言ってや
る。だからさ、可愛い顔見せてよ、澪。
 「……だったらあんな捻くれないでよ、遅いよ、ばか律!」
 首に澪の腕がきつく巻き付けられる。背中に顔をくっつけて澪はすすり泣いていた。裸
の肩は私の汗と、澪の涙や鼻水でべとべとだ。
 なんでこんなことが嬉しいんだろう、瞼が熱い。
 濡れた瞳の上で照明がぎらぎらと夏の太陽にように瞬いた。


 衣擦れの音を聞きつけてベットのカーテンを引くと、布団から身体を起こした澪の顔が
こちらを向いた。
「ん……あれ、ここ?」
「保健室だよ、倒れたの覚えてないか?」
 私がおぶっている間に澪は気を失いかけていた。保健の先生によれば睡眠不足とストレ
ス、それにステージでの演奏による緊張が原因らしい。体育祭や文化祭でこんな風になる
生徒は結構いるらしく、処置は汗を拭き取ってポカリスエットを口に含ませるだけの簡単
なもので後はベッドで寝ていればいいということだった。
「そっか……私、舞台で……って!律!お前あんな所でなんて事言ってんだよ!」
「そんな気にすんなよ、あれはパフォーマンスの一種って事にしといたからさ」
 本当は嘘。まあどうせすぐに分かることだし、今は少しでも心穏やかでいてもらいたい
から。
 あの後教室に戻った私は興奮したクラスメイトに取り囲まれた。
「二人って付き合ってたんだー!」
「幼馴染みなんでしょ?いつからそういう関係になったの?」
「ねえどこまで行ってるの?」
「律ちゃんかっこよかったよー」
 ライブの最中よりよっぽどうるさかった。一応パフォーマンスだとは言ってみたけど誰
もそんなこと信じやしなくって、私達はすっかり公認カップルにされてしまった。みんな
身近な恋バナに飢えていて、それが女同士とか割とどうでもいいみたいだった。
 澪は信じたのか信じていないのか、掛け布団を握りしめて下を向いていた。


261 : ◆Y8Cyh2./EM:2009/08/25(火) 22:17:48 ID:Vf/XwQMA
「……律、あれは……告白ととってもいいのか?」
「いいよ」
「友達だった頃と同じようにはできないよ?」
「そんなの、私もだよ……みお」
 そして私は澪にキスした。不意打ちされた澪は口をぱくぱくさせている。そうそう、こ
のくらいは驚いてもらわないとね、この間のおかえし。
「りつっ……!」
 澪に強く抱き寄せられた。胸の谷間から立ち上るお酒のような甘い匂いで頭がくらくら
する。身体拭いてないけどひょっとして私もこんな匂いしてるんだろうか。
「澪だけにずっと悩ましてごめん、私も好き。他の友達と一緒なんて嫌だ、ずっと私が澪
の一番でいたい」
 安いラブソングみたいな台詞だけど、澪みたいな才能のない私にはこれが精一杯。だか
らあとは身体で感じて。
 腕と胸の間から頭を出すとそのまま上に覆い被さった。こんな事で本気が示せるかわか
らないけど、私の貧相な身体なんかに興味なんかないかもしれないけど、私の全部、欲し
がってくれたらすっげえ嬉しい。
 今日二回目のキス。今度はお返しなんかじゃない、目と目を合わせて真っ正面から。キ
スというよりまるで骨付き肉にかぶり付くみたいに口を開いて舌を擦り合わせた。下腹部
が経験したことのないくらいに熱くなって、内臓が浮き上がってきそうなくらいはっきり
と意識できる。女同士でもこういう本能ってちゃんと働くってことに安心する。
 今保健室には誰もいない。とはいっても先生だってそう長いこと席を外しているわけじ
ゃない、きっとすぐに戻ってくる。けど澪も、澪の瞳の中の私も蕩けきった顔をしていて、
その合わせ鏡の中を行ったり来たりしてる内にますます欲望はエスカレートしていく。
「ひゃっ!」
 澪の冷たい指が脇腹に触れてそこからもぞもぞとスカートに割り込んできた。ももの内
側をゆっくりと上下に撫でられて、たったそれだけで感電したみたいに全身に快感が広が
る。息をする度に服が敏感になった肌に擦れて生殺しにされてるみたいだ。
「……さわっても、いい?」
 澪は二人の唾液にまみれた唇を舌で拭いとって言った。ためらってだけなのか、焦らし
プレイかと思ったよ。
「いい……ってか早く来て」
 もう場所とかどうでもいい。今、澪が欲しい。澪の手をそこに導くように腰を浮かせる。
下着越しに指が触れた。
「!!!」
 ドカッ!っと真横の壁から何か重たい物がぶつかる音がして、私達は反射的に身体を離
した。
 壁越しに、後ろしっかり見ててよねー、等という声が聞こえる。展示に使った大きな机
でも片付けているらしい。良いところで邪魔しやがってと思ったけれど、そんなことして
いる間に先生も帰ってきて、私は慌てて服の乱れを確認するとベッドの横に腰掛け、今ま
でおしゃべりでもしていたかのように装った。
 疲れてるんだから無理させちゃダメよ、という先生の注意をはーいと素直な返事で流し
てほっと一息つく。


262 : ◆Y8Cyh2./EM:2009/08/25(火) 22:18:42 ID:Vf/XwQMA
「残念だったなー……いい所だったのに」
「……あれ、最後ちょっとだけ触ってたよな?」
「うん……あれだけで軽くイっちゃいそうだった」
 先生に隠れてひそひそ声で囁き合う。耳に掛かる吐息に背筋がぞくぞくするけれど今は
我慢。
「律……あのね……うち、夕方までは誰もいないと思うんだけど来る?」
 澪しゃんえっちですね。もちろん二つ返事でイエスなんだけど。
 舞台裏から持ち帰ってきた制服を渡すと澪はカーテンを閉めて着替えはじめた。どうせ
すぐ裸になるっていうのに、ベタな少女漫画みたいなことをする奴だ。
 お世話になりましたっ、手短に挨拶すると私達は保健室を飛び出した。
 廊下はまさに祭りの後といった雰囲気で、びりびりに剥がされた飾り付けの下からは黒
ずんだ木目が顔を出していた。澪はさっきまで寝込んでいたのが嘘みたいに軽い足取りで
散乱するダンボーや模造紙を避けて歩いている。
「でもこんなんでいいのかなぁ」
「何が?」
「欲望に正直すぎるっていうか、その順序っていうか」
 私から好きって言ったのはついさっきなわけで、それで保健室のベッド、しかもコスプ
レみたいな衣装のまま始めちゃうって冷静になってみるとかなりあれだ。エロマンガかっ
つうの。
 そんな常識人な私に対して澪はこともなげだった。
「いいんじゃない、私達は昨日今日の付き合いじゃないだろ?」
 十年近くも一緒にいるんだから……まあそう言われればそうかもしれないけどさ。
 私が首を傾げている間にも澪はずんずん先に進んでいく。
 待って、待ってよ澪。
 足の長い澪に合わせて私は自然と駆け足になる。振り回しているようで、いつも振り回
されてる付点のような私。
 
 昔からずっと変わらない、私達のリズム。


263 : ◆Y8Cyh2./EM:2009/08/25(火) 22:19:42 ID:Vf/XwQMA
これで終了です。


―――――――――
作品の余韻を感じてほしいのであえて感想レスは省きました。

また百合スレに戻ってきてほしいですね。
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